Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre lounge
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
17 October 3151
「これだから、インナースフィア出身の人間はっ!」
マラートの怒声がラウンジに響いた。
あまりの大声に周囲にいた基地の人間は彼の方向に首を向けた。
いつもなら彼を止めてくれるタニスが今日に限っては彼の隣にいない。
ブレーキをどこかに置いてきた彼が怒鳴りつけているのは、ドルジがエステロスから攫ってきたという眼鏡の娘だった。
自分よりも遥かに長身のマラートの迫力にも関わらず、彼女は平然と構えている。
「明日の作戦、みすみす希少なVisigothを失うくらいなら、ワシらを現地に降ろせと直談判しとるんじゃ。」
マーカーの設置は難しくとも、起動状態のマーカーを抱えて飛び降りることはできる。
グライダーを何機か現地に送り込めれば、僅かな犠牲で多くの敵を道連れにできるはずだ。
気化燃料爆弾の効果範囲の広さは良く知っていた。
「だから、作戦は予定通りに終わった。と申し上げてるはずです。」
「そんなわけがあるか!」
騙されるものか、と老兵士は更に憤慨する。
「明日、決行の予定の作戦がもう終わってるわけがなかろう。昨日訓練から帰ってきたVisigothだって、まだ格納庫の中で整備中だ。」
ラウンジに隣接する会議室の一つに彼から逃げるように入るプリヤンカの後を追ってマラートも扉をくぐった。
部屋の中では何人かの人間が壁面のスクリーンに映された映像を見つめている。
「ドカーン!!」
スクリーンの中で火球が爆ぜるたびにバヤルが大声と共に両手を高々と掲げた。
その隣ではタニスが難しそうな顔をして画面を食い入るように見つめている。
「何を難しい顔をしてるんだタニス。そんな映像の何が面白い?」
マラートは不機嫌な顔をしながらタニスの横に座り込んだ。
「ドカドカドカーン!!」
連続する爆発を見て大喜びの狂人を煩そうに一瞥するが、その騒々しさにもまるで反応しないタニスの様子を見て、映像に興味が湧いた。
映像には音がない。見れば、どこかの戦場の様子だ。
空から撮ったものだろう。戦闘機の視覚センサーの映像を繋げたものだ。
一定の時間の区切りで視点がどんどん切り替わる。見る人間への配慮や工夫の欠けたただの映像だ。
ふと、映像の中の地形に見覚えがあることに気が付く。建物の配置にもだ。
「リンツ港だと!?」
老いたとはいえ、記憶力はまだまだ十分だった。
どうでも良いことも、大事なこともまだまだ簡単には忘れない。
プリヤンカを振り返った。
目の前のこれが訓練の映像ではないことはすぐにわかった。
小さな士官候補生のブリーフィングを思い出す。
実戦経験のない候補生が頑張って考えた軍港の空爆計画。そう侮っていた作戦が、目の前の映像で繰り広げられていた。
マラートは驚きで思考が止まりそうになったが、次にやってきた怒りの感情で再び脳が活性化する。
──謀りおったか。
敵だけでなく、味方までも。
一言でも二言でも、誰かに何かを言わないと気が済みそうにない。
「あの、お嬢ちゃんはどこにいるんだ?」
出来る限りの大声で、プリヤンカを怒鳴りつける。
彼女はひるまずに、黙って映像の中を指さした。
マラートが彼女の指の先に目を向けると、ちょうど白い大きな迎賓館のような建物に向けて小さな点が落ちていくところだった。
次の瞬間に画面が白く光る。
「ドッカーン!!」
いよいよ耳障りになったバヤルの歓喜の声を振り払うように首を振った。
プリヤンカの指先の意味を測ろうとマラートは頭を働かせる。
──リンツ港にいるということか?それとも、あの爆光の中にいるということか?
色々考えを巡らしたが、どちらも結果は同じことにも思えた。
考えれば考えるほど、何もわからなくなる。
誰も正しいことを言っていないような感覚を覚える。
それが錯覚なのか、現実なのかはマラートにはわからなかった。
混乱が、彼の中で徐々に怒りに変わった時、会議室の扉が再び開く。
「帰ったわよ。......明かりもつけないで暗い部屋で何してんのよ?」
若年の士官候補生は呆れた声を出しながら、会議室の明かりを点灯した。