Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Badland
Krievci System,Gostivar
Jade Falcon
24 October 3151
マラートの本日何度目かの癇癪にタニスが彼を宥めた。
「ワシらはここでなにをやってるんじゃ!」
歩兵の出番のないドルジのメック戦に付いて行くと言って聞かなかったのはマラートだ。
一帯の地形は険しく、強襲歩兵の出番はないとプリヤンカに首を振られたのに分からず屋を決め込んだのも彼だ。
アリマが指揮車両の護衛部隊を編成する。と言い出さなければ、彼はここにすら居られなかった。
指揮車両から伸ばしたケーブルの先に設置された天幕とホロマップテーブル。
そこで、プリヤンカと共に戦況の推移を見守れるのというのは自分たちがただの1歩兵であることを考えれば破格の待遇だった。
スフィロイドのフリーボーンだとは言え、相手は部隊の作戦参謀役で何よりメック戦士の所有物だった。
プリヤンカへの無礼はドルジへの無礼と受け取られかねない。
マラートの癇癪癖にタニスは冷や汗をかきっぱなしだった。
だが、老人の癇癪のおかげで彼自身もお目付け役という名目でここにいられる。
ホロマップテーブルの3次元映像も戦術コンピューターが作戦を提案する流れも実際に見るのはこれが初めてだ。
車両内に引き篭もっているアリマの様子はわからないが、彼女がまた何かを企んでいるのであろうことは予想できた。
そうでなければ、戦術コンピューターの提案が却下され続けている理由がわからない。
陸上戦は渓谷に潜むTimberWolfのミサイル攻撃で始まった。
最初の撃ち合いでお互いに戦闘ヘリを1機ずつ失う。
戦闘ヘリを2機飛ばしていた敵はまだ1機が飛び回っているが、単独で飛ばしていたこちらは曲射のための目を失った。
上空を飛ぶ戦闘機からのセンサー情報は揺れが大きく、今回は使えない。
TimberWolfは迷わずにアリマと戦術コンピューターの提案を無視して、前に出る。
ドルジは地形の合間から顔を出して、ぶ厚い装甲のカロリンジャンのBansheeと激しく火線を交えることを選んだ。
味方のThunderboltが高地を陣取ったものの、敵の火力のほとんどが部隊の先頭に立つTimberWolfに集中する。
ホロマップテーブルの上に青く浮かび上がるTimberWolfの立体像の上半身が被弾を示す赤で染まった。
タニスの横にいたプリヤンカが手元のパッドをきつく抱きしめる。
数字に明るい彼女には老兵たちには分からないことも分かるのだろう。
眼鏡の下の表情の歪みが彼女の不安を写している。
敵の前進に合わせて、ドルジはTimberWolfを渓谷の奥へと機体を後退させた。
映像からは装甲に優る相手に押されているように見える。
深緑色のカロリンジャンのBansheeが渓谷の入り口に差し掛かった時、聞きなれない警告音がホロマップテーブルから鳴った。
「冷却系の警告音です。」
慌てるマラートとタニスにプリヤンカが音の意味を説明をする。
ドルジがTimberWolfの全ての兵装を一斉に放ったせいで、機体内部の熱が急激に高まったのだと。
『Bansheeダウン、Bansheeダウン!!』
突然、アリマの復唱する叫び声がプリヤンカのヘッドセットから漏れ響いた。
彼女が愛用するヘッドセットには音量の自動調節の機能がない。
たまらずにプリヤンカが装着していたヘッドセットを片方の手で外す。
『ジャイロをやったわ。ドルジ一旦下がって!』
アリマの歓声交じりの指示がヘッドセットからしっかりと聞こえる。
「候補生?」
タニスが苦笑した。
──こんなにも戦士の戦いに口出しをする候補生がいるものか。
プリヤンカがホロテーブルを操作すると渓谷の上、高台から戦場を見下ろす社畜兵団のThunderboltの視覚センサーの映像が表示される。
水平を失い、大地に転がる大型のメックの姿が写った。
『カロリンジャンのGrassHopperが右翼に押し込んでくる。社畜兵団のWolverineは後退するわ。ドルジ、どうするの?』
提案を却下され続けたアリマはドルジの動きに口を出すのを諦めて、全体の戦況を彼に伝えることにしたらしい。
答えの代わりにTimberWolfは両肩のミサイルで、味方のWolverineを追跡していた深緑色の戦闘ヘリを叩き落とす。
お互いに地上で動く戦力は3機のメックのみ。
少なくとも、頭数では相手と一緒になっていた。
『ドルジ、山陰に隠れているクォーツ1を誘い出して。』
冷たい感情を失ったようなアリマの声。
アリマがローリングストーンの白いPhoenixHawkを敵の識別コードで指名する。
ホロマップ上のマーキングの変化を目にしたプリヤンカが慌てて外していたヘッドセットをかけ直した。
同じ声を耳にしたのであろう。
タニスの横で隣で難しい顔を装っていたマラートがブルっと身体を震わせた。