Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
6 November 3151
エステロスを発った後、彼女が正式に部隊の医官になるとアリマ達の健康状態は彼女の管理下に入った。
隊員は半年に1度、彼女の健診を受けることになり、各々の責任で野放しとなっていた生活にシタのメスが入った。
最初に健診の対象になった整備員達がわけもわからずにシタに血を抜かれ、身体中を弄り回されているのをアリマ達は笑って見ていた。
だが、血液検査の結果から、トヤーの出生の一部が明らかになったことで流れが変わった。
血液と尿だけでも相当な量の情報が詰め込まれている。
トヤーは自然分娩ではなく、鉄の子宮で遺伝子調整されて産まれた子。ファルコンの戦士の遺伝子、ロシャクの血統だった。
戦士の遺伝子を保管し、戦士を産み出す施設は頻繁に戦乱に巻き込まれる。
託児所でなのか、どこかのシブコで訓練中でなのかはわからないが、運良く彼女は生き残った。そういうことなのだろう。
大人たちを唸らせた彼女の才覚の由来は想像以上に彼らの身近なところにあった。
由来が分かったからと言ってトヤー自身は何も変わらなかったが、周囲の目は変わる。
「職位の審判」を受けてはいないとは言え、同じ氏族の血統同士と分かったゾリグとトヤーは以前以上に仲を深めたようだった。
一方、隠し事の多いアリマにはシタの健康診断は脅威でしかない。
何かしらを採取されれば、それらを分析した結果が記録として残ってしまう。
アリマは意図的にシタを避けて、長らく彼女の目から逃げ続けた。
それでも、お互いに同じ男に抱かれているのだから逃げるには限度があった。
ついには捕まり、血を抜かれて喉の奥を覗きこまれた。
敗因は2つ。
1つはドルジの予定を調べ損ねたこと。もう1つは朝までドルジに抱かれていたことだ。
今日は朝早くから定期検診でシタがドルジの部屋を訪れる日だった。それを知らずについ日が昇っても彼に甘え続けた。
その結果、主の去った後の部屋で愛人が別の愛人に血を抜かれ、尿まで採られている。
この、世にも珍しい経験にアリマは困惑を隠せなかった。
「女の子のプライバシーは守るわよ」
余程不安げな表情をしていたのか、女医は試験管から目を背けずにアリマに声をかけた。
「年齢、スリーサイズ、遺伝子情報。秘密にしたいことは多いのでしょう?」
そうは言っても、ほんの少し前までこの部屋で嬌声を響かせていたアリマには女医から何かを隠せるような術はない。
しかも、迂闊に寝台から身を起こそうとすれば、肢体の内からドルジから受け取ったばかりのモノを零してしまいそうだった。
正直、身体の内側で流れる2つの液体の感覚に耐えながら、シタに尿を採られる自分の姿は思い出したくもない。
──できれば、偽装前の姿も人に曝したくなかったんだけどね。
彼女の正体を知っている人間は少ないに越したことはなかった。
実際のところ、トヤーの血液検査の結果を漏らしたのは本人で、シタは一言も口を開いていない。
シタのクセの強い筆記体で手書きされた健診結果は本人以外ではドルジですら見せてもらえないと言う。
「情報は......どうやって保管してるの?」
「ネットワークから隔離された場所。この部隊の中枢にいる人間なら、誰しもがお世話になっている場所。」
当然の疑問を口にするアリマを安心させるようにするすると女医は隠し場所を答えた。
「誰かが入ろうと思っただけでは入れない場所に保管されてるわ。」
──そんな都合のいい場所があるわけないのだけど......。
アリマがどんなに頭を巡らせても、その条件を満たせる場所は一つしか思い浮かべられない。
この部隊ならではの隠し場所。物理的には存在しても、精神的に隔絶された人の認識から外れた場所。
アンネの聖域以外にはあり得なかった。