Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
10 November 3151
クリエフチは人口6億に満たない星系で、首都星は6割以上を陸地が占める。海域は巨大な濠のように大陸を4つに隔て、現在は公爵派と執政派を分かつていた。クリエフチの執政は惑星の各地に分散していた守備大隊を首都のあるゴスティヴァル大陸に集結させ、公爵側の侵攻に対して抵抗を続けている。
千人に満たない数にまで減った守備隊に数千人のブルーマーチンの構成員を加えても、公爵の手勢には数で敵うはずがなかった。
LICは早々に公爵のクリエフチの占領阻止は諦めていた。
公爵のクリエフチの占領を許して、氏族による統治を終わらせるのを優先する。その後、ブルーマーチンの活動を氏族への抵抗から公爵への抵抗へ切り替えて、徐々にクリエフチをライラの勢力圏へ取り込もうとしていた。
そこにポンと現れたドルジの部隊が仕掛けたリンツ港襲撃はブルーマーチンを背後で支援していたロキの計画を大幅に狂わせる。
強大だった公爵の手勢、1個歩兵師団を一夜にして消し去ってしまった。
そればかりか、リンツでエミリーヤと繋がっていた公爵側の将もアリマ達は焼き払ってしまう。
先日のメック戦も痛み分けで勝敗は付いていない。
おかげでエミリーヤ達が想像していた、年内のシャストル陥落というシナリオが成立しなくなった。
シャストルの東の沿岸を時代錯誤の水上艦が荒らしてはいるが、公爵側には上陸させる歩兵がいない。
迷惑な行為ではあったが、脅威ではなかった。
エミリーヤの感じている焦りやこの状況は、この星に配置されたLICエージェントでさえ理解できないだろう。
生き残った敵の将は公爵に近しい人物が多く、ロキと通じてくれそうで御しやすそうな人間をこれから探すことは難しい。
交渉の窓口がなくなったとなると、ブルーマーチンとLICはこれまで痛めつけていたJadeFalconの守備大隊と共に公爵の陣営と戦って、どうにか勝たねばならなかった。
だが、ブルーマーチンや執政には公爵側の残された部隊を潰したり、相手の本拠地であるニューウィーンを制圧できるほどの手勢はない。
要するにアリマ達は完勝する手立てもないのに関わらず、公爵側の人間を殺し過ぎていた。
シャストルの要塞に送り込んだファーベからは、彼女達がおとなしくしている。という報告しかない。
彼女たちはもう目的を達しているのだ。滞在期間を終えたら、今後のクリエフチの趨勢に関わらず、彼女たちはクリエフチを立ち去るつもりだ。
ひょっとしたら、公爵側の体力切れという筋書きを狙えば執政側の勝ちもはあり得るのかもしれない。
だが、そこにアリマ達が関わり合うつもりはないのだろう。
執政側にもブルーマーチンにも体力がない。
テコ入れしようにも超光速通信という手段が無いのでは情報の伝わる速度は遅く、他の星系に応援を求めても増員は間に合いそうになかった。
エミリーヤは他の手立てを考えざるを得ない。
──今日も会えなかった。
アリマ達は頑なにエミリーヤをドルジの前に通そうとしない。
連絡員のファーベですら、彼を見かけたことすらないと言う。
存在するはずの2人の女性の側近、アンネとツェレンの姿も確認できていなかった。
公爵の意思を挫くためには斬首作戦しかないとエミリーヤは信じている。
首都を陥とせなくとも、首魁を亡き者にすることで短期決戦を狙う。
例え、作戦が失敗したとしても自身や家族の身に命の危機があるとわかれば、公爵が星系から一時後退することもあり得る。
だが、そもそもこの星系の騒乱で完勝する気のないアリマやプリヤンカでは話が通じない。
公爵の首を狙って、クリエフチの争いに終止符を打つのであれば、彼女らよりも更に上の存在に直に訴えるしかなかった。
幸い、ドルジは世にイメージされる氏族の戦士よりもそこはおおらかだと聞く。
彼がこのクリエフチの戦闘の決戦をメック戦闘に拘ることはないとエミリーヤは踏んでいた。
だが、どんなに敷地内を歩き回っても彼の姿は見当たらない。
格納庫にも基地の中にもいないのであればどこに居るというのか。
エージェント・エミリーヤは途方に暮れるしかなかった。