Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Beach Arv
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
10 November 3151
広い砂浜、青い海。
宇宙港を立てるため、赤道に近い緯度のシャストルでは冬でも温暖な気候を楽しめる。
ドルジが何人かの人員を連れて、近隣のビーチに出かけると聞いてオーケはいてもたってもいられずに同行を志願した。
この外出は外部には知られないようにと一部の人間しか知らされていない。
プリヤンカの発案で、アリマですら仔細を知らないという。
このドルジの外出にはツェレンが同行する。
──女連れでお忍びとは。
大いに興奮せざるを得ない。
プリヤンカももちろん一緒だ。
2人ともドルジの愛人だが、そこについてはオーケは気にしない。
むしろ、良い。
整備班から抽出された3人も全員女子だ。
大きな果実に例えられる2人とは比べるべくもないが、大きくても小さくても良いものは良い。
オーケはドルジがこんなにも男の欲望に理解のあるボスだとは思っていなかった。
むしろ、毎晩の性活に見合わないドライな感性にオーケは違和感と嫉妬すら覚えていた。
──見直した!一生付いていきます!
これから目にする花園を想像して、オーケは頭の中で叫んだ。
今日の午前中までは。
「A1からB13エリアまでの人員の退避完了しました。バヤルさんやってください。」
スピーカー越しに聞こえるプリヤンカの声でオーケは我に返った。
分厚いヘルメットを被っているせいか、眼鏡の女士官の声はくぐもっている。
分厚い装甲服に包まれた彼女の姿はオーケの夢想した姿からは程遠い。
ガスの抜ける音とロケットモーターの噴射音の直後に、目の前に広がる砂浜に黒い金属や樹脂がばらまかれる。
背の高い砂煙がいくつも舞い、カーテンのようにオーケ達の視界を遮った。
『今の散布見た?バッチリだったでしょ?』
バヤルの明るい声がヘルメットの中で鳴り響く。
普段なら音量を操作するところだが、オーケは目の前の砂浜が荒らされていく様子に気が気でない。
ビーチと言えば、水着じゃなかったっけ?
──なぜ、俺たちは神聖なる砂浜に爆薬をばら撒いているのか?
男も女も解放感に浸れる素敵な場所。それがビーチというものではなかったか?
想像していた甘い飲み物、甘い空間はどこにもなかった。
知らずに地雷散布という現実に自ら志願した自分の能天気に大きな失望を感じすらする。
今、解放感を感じている人間がいるとすれば、キャリアーの砲塔の上で踊り狂うバヤルただ一人だ。
ミサイル狂いの男は地雷散布ロケットの発射が楽しくて仕方がなさそうに見える。
ビーチの別の場所ではアレフが黄色い工兵用のメックで有刺鉄線や障害物の設置が進めていた。
期待とは違う色の球体がオーケの目の前で砂に埋もれていく。
砂浜に埋まる遊びはもうここでは恐ろしくてできそうにない。
どうしてか泣けてきたので、気を紛らわせるためにオーケはプリヤンカにツェレンがこの作業に同行している理由を訊ねた。
機雷を海に航空投下している気圏戦闘機の指揮を執るならシャストルの司令所の方が適している。
「ママは母胎から生まれているから、ソラーマの人達と顔を合わせにくいのよ。」
両手を腹に当てて、彼女は少し言いにくそうに内情の説明をした。
元々中心領域の人間のプリヤンカと違い、氏族のパイロットとなるとソラマの戦士達の受け取り方もまた変わるのだろう。
部隊内で戦士カーストの上下問題を起こす前に、ツェレンは一歩身を引いたということか。
普段の彼女から感じる違和感の正体にオーケは合点がいった。
ツェレンは鉄の子宮から生まれたのではなく、人間の両親がいる。
人に愛されて育ったという意味では彼女の感性はオーケ達に近いはずだ。
ただ、氏族の中では蔑視に晒されながらの人生だっただろう。
ツェレンの由来を聞くと、オーケはますます彼女の水着姿を見れなかったのが残念な気分になった。
だがふと、ドルジ隊の隊員は彼が望むような色っぽい水着は皆、持っていないのかもしれないことに気が付く。
地雷を撒くロケットの轟音の下で、オーケは現実の寂しさを噛みしめた。