Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
19 November 3151
タニスとマラートを荷台に乗せたトラックが基地の駐機場に辿り着くと2人はさっさと降り立った。
慣れない作業に夕方まで駆り出された上に移動が荷台の上では体が痛くて仕方がない。
今にも噴火しそうなマラートをタニスが宥め、それを他の兵士が冷や冷やしながら見ないふりをする。
そんな居心地の悪い空間から、誰もが早く離れたがっていた。
「あんな石の塊が役に立つのかね?」
「コンクリートの塊だ。上陸する車両の足止めには十分なるさ。」
数フィートの高さの障害物が役に立つこと自体はマラートも百も承知だ。
だが、数的不利を抱えるこちら側が設置した障害物を生かせるかどうかはタニスも疑問だった。
ブルーマーチンが寄こす資材の質はひどく悪い。
これならば、例え物量が半分に減ったとしても自力で調達した方が良かった。
今は味方の組織の悪口を気にせずに喋りながら基地の中に入ろうとすると、見覚えのある老人がパイロットスーツの女性と座り込んでいた。
マラートはパイロットスーツの女性には見覚えが無かったが、パイロットスーツの彩色の意味は知っていた。
「商人階級の執政官が、人腹生まれの戦士と地べたで井戸端会議とは何の冗談だ?」
パイロットスーツの女性が目を腫らして泣いていることには気が付いたが、腰と尻の痛みからくるマラートの癇癪は彼の良心を無かったことにした。
タニスも今更彼の素行を止めたりはしない。階級が違う、生まれが違う。とはこういうことなのだ。
商人階級の執政官が守備隊の戦士を戦場で指揮することはない。
だが、氏族はこの星系を征服した後、執政官の座をこの爺に押し付けた。
この星系の統治を担うはずの彼は守備隊への命令権を持たない。
仮に持っていたとしても、守備隊の戦士たちはそれを認めなかっただろう。
だから、マラートの執政官への差別発言は挨拶のように繰り返されている。
「おや、お二方お元気そうで何よりです。久しぶりの土方作業はどうでしたかな?」
執政はまるでマラートの発言を気にすることなく、自分の腰を摩って見せることで彼の腰と尻を気遣った。
虫の居所の原因を見通されたマラートは鼻を鳴らす。
「お渡しした爆薬はブルーマーチンのモノよりも良いものでしたでしょう?」
「インナースフィア製は本当にゴミばっかりでよぉ。」
怒りの矛先をブルーマーチンで逸らされたとも気づかずにマラートは執政が提供した地雷を誉め始める。
タニスはそれを眺めながら、パイロットスーツの女性について考え始めた。
ドルジ隊の戦闘機のパイロットの一人がフリーボーンだったとは知らなかったのだ。
見覚えのある戦士を除いていけば、彼女がドルジの副官、ツェレンであることは間違いがない。
しかし、その彼女が人からの慰めが必要なほどに悲しみ嘆くようなこととはなんであろうか?
タニスには皆目、見当が付かなかった。
「ところで、執政。人腹生まれとは言え、女戦士を手籠めにするのは感心しないな。」
マラートはマラートで女性のことが気になっていたようだ。
だが、彼はまだ彼女がドルジの副官であることに気が付いていない。
これ以上の発言はドルジへの侮蔑になる。とタニスが彼を止めようとした。
だが、執政の一言でタニスは全ての動きを止める。
「彼女は人生のパートナーを喪ったばかりなのです。ご容赦いただけませんか?」
執政の言葉の意味が理解できず、更に何かを口にしようとしていたマラートをタニスは反射的に殴り倒す。
自分の行動が正しかったかどうかを、身体が動いた後に考えるのは久しぶりだった。
頭の中で情報の断片と断片が組み合わさっていくが、タニスにはまだその結論を受け入れる勇気はない。
目の前の爺に何かを問えるまでは、まだしばらく時間が必要だった。
タニスはその時間を稼ぐための少しの間、目の前で起き上がるマラートを更に殴りつけることにする。
夕闇が迫る中、タニスはマラートに吠え掛かった。
何が何だか分からないマラートもタニスに掴みかかろうと身構える。
老兵同士の取っ組み合いを執政は止める気はなさそうだった。