Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
25 November 3151
「オーケさん」
帰還したばかりの気圏戦闘機を誘導し終えた整備班長に声をかける阿呆がいる。
どこのどいつだ?と目を向ければ、アレフだった。
── こいつが自分から人に声をかけてくるとは。明日は槍でも降るのか?
珍しい顔を見た驚きでオーケはつい、「空気を読め」と怒鳴りつけるのタイミングを逸した。
「なんか用かよ。」
大きな声を出すチャンスを逃して、小さな声で尋ねる。
周囲のエンジンの音にかき消されて、ほとんど聞こえたはずもないのにアレフは用件を告げ始めた。
「FLEAを売り払うことになったんだ、高く売れるようによく磨いておこうと思ってさ。」
突然の想像を越えた話に目を瞬かせて、首を傾げる。
──メックを売る!?
軽いとは言え、戦闘用のメックだ。安い買い物じゃない。
そんなものをポンと買えるような人間を見つけるだって一苦労するはずだ。
「誰かの許可をもらってるのかよ?」
「この件については、アリマちゃんから全権を任されているんだ。ドルジのTimberWolfを取り返すのに少し現金が足らなくてね。」
小さな笑みを浮かべ、両手を広げて何でもないことのように語る。
「へ?ドルジのTimberWolf返ってくんの?」
「カロリンジャンの人とお話ができてね。返還に応じてもらえそうなんだ。」
お金はかかるけどね。とアレフは指を丸めてみせる。
「FLEAの売却先もカロリンジャンなのか?」
「いいや、違うよ」
オーケの言葉をアレフは首を振って否定する。
そして、唇に人差し指を当てて答えた。
「ローリングストーンズさ。ちょうど彼らは軽いメックを欲しがってるからね。」
──こいつ、ついこの前まで命の奪い合いをした相手と商談をしてきたってのかよ。
アレフが肝が据わってる人間なのはわかってはいた。
ドルジに拾われる前は土方の監督をやってたと聞く。
こういうのは滅多に身に付く度胸じゃない。あまり口を開かない目立たない男だったが、ドルジに拾われただけはあるということか。
「オーケさんには交換用のTimberWolfの整備もお願いしたくってさ。」
次々と次の仕事の話が湧きでることに少しオーケはたじろぐ。
「ブルーマーチンが寄こした装甲板と機器でいいから、保管状態から稼働状態に復元してほしいんだ。」
頭の中で考えをまとめるのに限界を迎えたので、手元の紙にぐちゃぐちゃと考えを書き込み始めた。
「FLEAの整備が超特急、次が交換用のTimberWolfの復元でこれも超特急。そのあと、ドルジのTimberWolf。そういう順番ってことでいいんだな?」
誰にも読めないメモを読み上げて確認する。
アレフは小さくうなずくと、オーケの手元から紙片をひょいと取り上げて、取り出した着火器でそれに火をつけた。
「その手順でお願いするよ。FLEAの整備は僕も手伝える、なんでも言ってほしい。」
真っ黒な炭に変わった紙片がアレフの手を離れて、2人の男の間に落ちる。
オーケは首を少し傾けると鼻を鳴らして答えた。
「要らないね。スピード勝負だって言うなら、シロウトの手はお断りだ。」
アレフに背を向け、腕をぐるぐると回すと顎を引き、格納庫の喧騒に負けない声で班員を4人呼びつける。
「カール、ラース、スヴェンと...あー、誰か寝てるプロフェッソールを叩き起こしてくれ。メック格納庫に移動だ。」
「頼んだよ。」
後ろから聞こえる、調子の軽い声にはもう興味がない。
本当の地獄、ぶっ通し作業の始まりだ。