Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Pad2,Union Class Dropship,Bridge
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
30 November 3151
「俺が下の階の話を知るわきゃないだろう?」
「ゾリグも、ナランも、アレフも、オチルも、ボルド達も、船の中にいないんです。」
肩を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返すドルマーにオスキャルは答えた。
艦内を下から上まで駆けあがった程度で、こうなるようなヤワな鍛え方はしていない。
焦り、混乱、不安と確信が彼女から平静を奪っている。
エミリーヤとファーベに応対する前までは、確かに全員が船の中にいたはずだ。
彼らを船外に見送った後、やけに静かだと不審に思ってドルマーは艦内を駆け回る。
格納庫は整備班以外の姿はなかった。
会議室も士官室もほとんどの部屋がもぬけの殻だった。
道中、塞ぎこんで何も口にしなくなってしまったアリマの姿が目に入った。
だが、今は彼女の相手をできない。
そのまま、オスキャルのいる艦橋にまで駆け上がってくることになった。
ここも、操船に必要な要員以外は見当たらない。
「オーケはなんか言ってなかったかい?」
顎を弄りながら問うオスキャルにドルマーは首を振った。
「車両の、固定に、かかりっきりで、話しかけられませんでした。」
普段は怖くもなんともないオーケだが、一定以上の集中状態にある彼の作業を邪魔すると凄まじい形相で睨みつけられる。
ツェレンもトヤーも誑かしたり、甘えたりとオーケの怒りを躱す方法を心得ていた。
ゾリグやアリマも仲良くやっていたようだ。
しかし、彼の不機嫌をうまく回避する術を持たないドルマーは彼に話しかけることすらできない。
結局、勇気が湧かずに、自分の足で皆の行方を探すことにした。
だが結局、ドルマーは道中で誰も目的の人物を見つけられずに、頂上の艦橋にまで至っている。
オスキャルがコップに入れてくれた蒸留水で喉を潤す。
「最近直ってきたと思っていたが、ビビりは相変わらずかい。」
やれやれ、と笑う彼に返せる言葉がない。
ラサルハグ共和国、GhostBear氏族出身の退役艦長と紹介された時、心の中では彼のことを馬鹿にしていた。
今はもう彼を軽んじる心はない。
倍以上の年月を生きるこの老戦士が、なぜ自ら引退してまで運送屋の傭兵に成り下がったのか、興味すらあった。
だが、今はそれを訊いている場合ではない。
──オーケは何か知ってるの?
艦長の口ぶりを信じるのなら、彼は何か知っている。
ゾリグ達がビーチアーヴのどこに行ったのか、聞き出さねばならなかった。
艦橋の入り口を振り向いて、ドルマーはもう一走り、今度は艦内を駆け下りる覚悟を固める。
「お嬢ちゃん、そっちじゃない。」
床を蹴って、前に進み始めたところでオスキャルに呼び止められた。
──船の充電中、艦橋のエレベーターは使用禁止のはず。
格納庫に行く道は、脚で駆け下りる以外に道はない。
それでもドルマーは彼を振り返る。
靴底の摩耗が心配になるほどに、足元の床が音を引いた。
オスキャルが艦長席の操作盤でいくつかの操作をすると、艦橋の緊急脱出用のハッチが開く。
その先は整備塔の連絡用通路に繋がっている。
「整備塔の昇降機の利用は禁止されとらん。あと、艦内はなるべく走らんように。全力疾走して怪我されちゃかなわん。」
ありがとう。とドルマーは艦長席に叫ぶと、再び駆けだした。