Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Pad2,Launch Umbilical Tower
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
30 November 3151
降下船の外に出た途端、ドルマーは辺りの違和感に気が付く。
「歌声?」
響き渡るような声ではなく、辺りに溶け込んでしまいそうな声だったが、声の主はすぐに目に入る場所にいた。
整備塔の隣、避雷塔の上に彼女はいる。
黒衣をたなびかせながら、肩に鼓を載せて塔のてっぺん、金属の尖針の隣で舞いながら唱っていた。
跳んだり跳ねたりしているわけではないとは言え、地上から290ftの高さで子を授かった女性のやっていいことではない。
今すぐにでも彼女を止めるべきだと思ったが、ドルマーはそうできなかった。
彼女は東に向けて舞っている。
──ゾリグ達のための祈りか。
勝利か生還か、何を祈っての舞なのかは分からなかった。
だが、この舞に水を差してはいけない。
そのくらいの分別は、この信仰の薄い氏族の女戦士にもあった。
船の格納庫に急ぎたかったが、この巫女と共に祈らないというのは仲間への不義理にも思える。
同じ方角を向いて、目を伏せると戦場に向かう仲間たちの車列が見えたような気がした。
ミサイルキャリアー2両に弾薬補給車が1、指揮通信車が1、ボルド達と何人かの整備員を載せたトラックと小型の偵察車両まで随伴している。
立派な火力支援の車両小隊だった。
これから死地に向かうにも関わらず、ドルマーには土煙を上げながら疾走する彼らが楽しそうに見える。
「どうして?」
ビーチの防衛戦にVisigothは出さない。とドルマーは航空支援の必要性を訴えたゾリグにそう言い伝えた。
機体や仲間を失うような真似をさせるわけにいかない。と勇気を振り絞って年長の二人を止めたのに。
ゾリグとナランは他の戦士達まで引き連れて、皆で出撃している。
集団の中で、彼らが中心であることは、彼らが先頭を走っていることからも明らかだ。
やっぱり、彼らは言うことを聞いてくれなかった。
──戦闘機は出さない。そう指示したのでしょう?
ドルマーの頭の中でアンネが意地悪く笑ったような気がする。
急に目が熱くなって、何かがボロボロと溢れ始めた。
──だからって、みんなで車で行くなんて。
指示には従って欲しかったわけじゃない。
そんなことよりも、またも追いていかれた。という感情の方が彼女の中では大きかった。
いつもいつも、彼女だけが爪弾きにされているようでそれが悲しい。
防衛戦への参戦には反対したが、だからと言って仲間外れにされるのは心外だった。
仮に共に戦場に出たところで、ゾリグやナランのように戦えたりはしなくとも弾運びくらいはできたはず。
──黙って出ていくことないじゃない。
心の中でそう叫んだ。
アンネは何も言ってくれない。
彼女のような千里眼があれば、一緒に連れて行ってもらえたのだろうか?
それとも、止めても無駄だと知ることができたのかもしれない。
他の人の才や能力を羨んでいる自分をひたすらに情けなく思った。
誰かに手を取られたような気がして、目を開く。
祈祷の舞を終えたのか、アンネは静かにドルマーの手を引いている。
連れていかれるままに整備塔の昇降機に乗り込んだ。
籠に揺られてふと、気が付く。
みんなに置き去りにされていたことがわかったのだから、ドルマーにはこれ以上知りたいことはなかった。
むしろ、これ以上のことは知りたくない。とすら思う。
しかし、それを口に出して訴える勇気は残っていなかった。
昇降機が目的の階に辿り着いてからも、ドルマーはアンネの背の後を黙ってついて歩く。
ぐるぐると思考が廻って、何度も自分の行いを振り返る。
同じ結論に至る度に後悔の刃が自分の気持ちを切り裂いた。
アンネの後に続いて、ドルマーは格納庫に入る。
聞き覚えのあるエンジンの音が庫内に響いていた。
「お?飛行隊長様の到着だな?」
エンジンを鳴らしているのはドルマーの2番機。だが、機体の装備のほとんどが変わってる。
武装はほとんど取り除かれ、センサー類に置き換えられていた。
これでは、ほとんど5番機だ。
「5番機用の装備を拝借したんだ。レーザーはセンサーが焼けるから撃てねーけど、機銃は積んでるから安心してくれ。」
ドルマーの表情に気が付いたのか、振り返ったオーケが仕様の説明する。
「あと、隊長さん宛にゾリグの書き残しね。」
ポケットから取り出した折れ曲がった紙片をポンと手渡される。
どう見ても、彼が書いたものではなかった。
女が書いたはずの文字がメモには並んでいる。
「航空優勢ないけど、標的指示をおねしゃす。」
踊っているような落ち着かない字の並びは彼のパートナーの筆跡だ。
──トヤーに書かせたのね。
彼の筆跡は硬く鋭い。
それと比べるとサイズの揃っていない、丸みを帯びたちぐはぐな見た目の書き残しはドルマーの笑いを誘った。
「戦闘機は出せない。とは聞いたが、電子哨戒機を出さない。とは聞いてねーからな。」
オーケはそう言うとドルマーに腕を組んで見せる。
この男まで、こんなことを言い始めるとは。
「言っておくけど、俺が考えた屁理屈じゃねーからな。苦情はナランと艦長に言えよな?」
ドルマーはオーケの言葉に顔をしかめた。
あの艦長、親切な顔をしてヒドい嘘つきじゃない?
怒っていいのかどうかわからない。
複雑に表情を変えながら、ドルマーは2番機の操縦席へ続くはしごを昇った。