Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.17_01
Beach Arv
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
2 December 3151
空から花火のような音が聞こえる。
分厚い天井に護られているトーチカの中からでは音の方向は確認ができない。
目の前に広がる砂浜は艦砲に狙われて穴だらけになっている。
音の狙いはタニス達の居場所からはまだ見えない。
数マイル後方の陣地から、数マイル先の何かを狙って破片をばらまいているはずだった。
海の青の向こうから何本か白い水柱が見える。
敷設された機雷に何かが触れたのだ。
相手は事前に十分に掃海をしきれないままに上陸を試みている。
お互いの準備不足は致し方がない。しかし、これ以上の準備を相手にさせるのもお互いに許せない。
その交差点が、今日のこの日だった。
既に海上からの艦砲の音はない。
空の音は味方の野砲の音だ。
6両のLongtomが内陸から海上を走る上陸用の舟艇を狙っている。
大空の上を飛ぶ衛星からの画像を使って相手の位置を捉えているため、ズレが大きく弾が有効になりづらい。
しかも、弾着の観測ができないうちは落着地点の補正ができなかった。
「1隻も浜に寄せません。」
砲撃担当の少年兵は自信を持って胸を叩いていたが、実際のところ誰が撃ってもそんな芸当は期待できない。
一回に放たれる弾数が6発では偶然の命中を期待することも難しかった。
出来もしないことを彼らをどやすこともできたが、それで若者の気力を削いではもったいない。
──ようやく、この日が来たのだ。
後方の部隊を除くと、マラートやタニス達には撤退計画がなかった。
負けるはずがない。という慢心ではない。
ソラ―マ部隊の老兵たちが待ちわびた約束の日が訪れただけだ。
最後の一兵が命尽きるまで、帰還を企図せずに戦場に身を置く。
ただ死ねばいいわけではない。
一人でも多くの敵兵を地獄へ道連れにする。
海岸とシャストルを繋ぐ一本道をお互いの血で深紅に染める。
皆がそんな気迫で漲っていた。
『敵上陸用舟艇、多数。』
観測所からの報告が届くと、通信機から流れる情報量が途端に増える。
いよいよかと皆の心は沸き立つが、他の陣地と比べるとタニスの控える壕は静かだった。
「いつでも攻撃を開始できます。」
老兵たちを代表して、タニスはこの集団の中で最も階位の高い男に声をかける。
彼はタニス達が到着した時には既にここに居座っていた。
土を固めて盛り上げて作られた監視台の上に、腕を組んで聳えている大男を皆が見上げる。
邂逅して以来、彼と言葉を交わした者は一人もいない。
だが、タニスはこの男を壕からも監視台からも排除しなかった。
できなかったという方が正確かもしれない。
男の身体は分厚い帯状の黒い布で全身を隈なく覆うように巻かれている。
その上から氏族の戦士が着る緑色の野戦服を着こんでいるので、この姿の異様さは男の近くに寄らなければ気が付かない。
手元と顔面から覗く、分厚く重ねられた布地は不気味に光沢を放っていた。
その下からは目元のみが覗いている。
布の厚みを感じさせない体格、大きな手、力強い意志の宿った眼光はそれだけで老いた兵士達を従えた。
彼の気配が年齢を重ねるだけでは培えない経験の差を着込んだ野戦服と重そうなコートの下から感じられる。
老兵が戦って勝てる相手ではなく、少年兵など彼と相対するだけで泡を吹いて失神しかねなかった。
彼の持つ不気味な雰囲気に加えて、何よりも彼の背に吊るされた鉞と腰に下げた旧式の大型連発銃が彼の異様さ増している。
翡翠隼の羽毛を使った装飾は焼け焦げて、かつての色を失って黒ずんでいた。
だが、どんなに不審でも、不気味であっても、彼が血名を冠する氏族の戦士であることは疑いようもない。
金属の擦れるような音をさせながら、男が背から鉞を外して左の手に収めた。
壕にいた全員の視線が彼に集まる。
そのまま何も言わず。
男は壕と壕を繋ぐ通路に足を進める。
老兵の一人が叫んで、分隊に前進を指示する声が聞こえてタニスもはっと我に返った。
「分隊前進!敵の正面を抑える!」
自然と出る声が大きい。死を覚悟した、どこか自棄だった心が消え失せていた。
代わりに身体の内から、若かりし頃の荒々しい力が満ちてくる。
老いすら忘れて、タニスはこの戦を楽しいと思った。