Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Chastre LIC Hideout
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
5 December 3151
《リアクター オンライン》
《センサー オンライン》
《ウェポン オンライン》
《オールシステム ノミナル》
システムメッセージがコクピット内に無機質な音を響かせる。
真っ青に塗られた機体の表面装甲とがらんどうのハンガーがモニターに映し出された。
Crossbowの両手についたミサイルランチャーの照準が手元の操作と同期していることを改めて確認する。
機体のシステムチェックを信じていないわけではない。
だが、念には念を入れる。
体に染みついたクセのようなものだった。
本国がクリエフチの確保をどれほど真剣に考えていたのかは今となってはわからない。
本来ならばこの星にもメック1個中隊が送り込まれる予定だった。
だが、この格納庫に配備されているメックはたったの1機。
しかも、この重量級メックは本国から送られたメックではない。
出処はこの星の執政だった。
LICが隠し持っている唯一のメックが氏族メックとは何の因果だろうか?
ケル=ハウンドとは言わない。せめて実行部隊としてメック1個小隊でも与えられていれば、エミリーヤ達はこの星でも本来の残虐性を発揮できた。
人口6億人の星系に対して、10人強のエージェントだけではあまりに少ない。
タマラーやアークトゥルスに比べればクリエフチの優先度は低い。
だが、見捨てるならばそもそもエージェントを贈る必要が無かったのではないか。
この星系ではロキの残虐さは敵に向かわず、切り捨てという形で手駒に向かっていた。
5人残った
他のエージェントは本部がここを見捨てる前に死ぬか、公爵側に投降した。
──惜しかったな。
投降したエージェントたちの運命は、拷問と死だった。
戦いもせずに投降したエージェントなど、公爵は必要としていないのだろう。
ビーチアーヴ防衛戦の後で投降すれば、公爵側の扱いも変わったのかもしれない。
あの戦闘で、数千人の兵を失った公爵の軍勢は未だに橋頭保から先に進めていない。
内陸に降ろした空挺部隊と合流できない限り、前に進めないほどに彼らは痛めつけられている。
公爵たちは今、ようやく自分たちの過ちに気が付いたようだった。
だが、投降した敵を惨殺した彼らに身を預けようとする人間はもはやいない。
「エミリーヤが出るぞ。」
通信機の先に断りを入れてから、メックの脚を前に進める。
そもそも一機しかいない格納庫なのだから、本来はこんな断りを入れる理由もなかった。
生き残ったエージェントの中でメックの操縦が可能な人員はエミリーヤ1人しかいない。
腕や技術の問題ではなかった。
メックの操作に必要なニューロヘルメットへの適性を示す神経系を持つ人間は割合として、そう多くはいない。
『《ブロードソード1》、テイクオフ』
エミリーヤに随伴する戦闘ヘリ2機が地上から発進する。
エミリーヤ達は更に抵抗をするために作戦を立てた。
契約していた社畜兵団と連携して、内陸に降下した空挺部隊の投下物資を襲撃する。
シャストルの宇宙港にまだいるはずの彼らにも作戦協力を打診したが、返事はなかった。
社畜兵団だけでは戦力が足らず、エミリーヤは仕方なく自分を含めたLICエージェントの残りの半分を作戦に投入する。
適材適所とは到底言えないだけで、彼らとて戦場を経験している優秀な士官だった。
皆、ここで散らすには惜しい希少な人材だとエミリーヤは思っている。
ただ本当に残念なことに、本部は彼らをエミリーヤごと回収することを諦めた。
複雑な思いを胸に丘を駆け、社畜兵団との集結地点に急ぐ。
既にそこでは1機の小さなメックが待っていた。
軽量級のメックは器用に脚を投げ出して草地に座っている。
『あれ~?オバちゃんメック持ってたの?』
ホロ通信から流れてくる失礼な物言いではなく、浮かび上がった彼女の姿にエミリーヤは唖然とする。
重いニューロヘルメットとパイロットスーツに身を固めたエミリーヤとは服装がまるで違った。
身体の線の隠れないシャツと腿が剥きだしのホットパンツ姿、露わな髪はバンドで後ろで纏められている。
「あなた、どうしてここに?」
無礼を指摘するのを忘れて、彼女に問う。
エミリーヤの頭の中で疑問が渋滞を起こしている。
かろうじて、訊きたいことの一つを口から絞り出すことに成功していた。
『どうしてって、メッセくれたじゃん?』
軽い身のこなしで、目の前のKitFoxが起ちあがる。
エミリーヤの戸惑いは、目の前の少女には伝わらないようだった。
トヤーが通信のチャネルを追加して、気圏戦闘機の女隊長を呼び出す。
『ねぇ、ドルマ―。お返事しなかったの?』
『トヤー、あなたが返信するって言ったのよ?』
『そぉだっけ?』
じゃあ、忘れてた。とあっけらかんと言う彼女にこれ以上の質問をするのをエミリーヤは諦める。
「き、来てくれてありがたいわ。なんと言えば良いのかしら?本当にありがとう。」
調子が狂ったのか、普段は言わない感謝の言葉を口にしてしまう。
ホロに浮かんでいたトヤーの表情が小さく首を傾げた。
「うぇ~、オバちゃん今日は素直じゃん?キショっ!」
変わらない少女の物言いに、エミリーヤはムカつきを覚える。
だが、その意見には完全に同意できたので、何も反論しなかった。