Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump lounge
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
11 January 3151
怒鳴り声が上がった瞬間、オチルは本能的に肩をすくめた。
デブリーフィング、つまりは負けた報告会だ。
誰のポカで失敗したのか、誰が吊るされるのか――詰問の時間が始まる、はずだった。
だが予想に反して、最初に炸裂したのは敗北の話ではなかった。
「いいわけがないだろう!?」
声の主はコボル。
この基地で一番説明のつかない立ち位置の男で、今やこの基地の全てを牛耳っている。
戦士階級ですらないはずなのに、なぜか作戦会議で正面に立っている。
その彼が、困惑の表情でわめいている。
ドルジが、帰投中のルートで民間車両と衝突した。
事故の被害者…アレフという若者を回収し、そのまま基地に連れてきた。
目的は「戦力の確保」だという。
メック戦士と言わずとにかく人の数が足りていないこの基地では、確かに猫の手も欲しい状況ではあった。
だが、それは人攫いというのでは...?
最初は冗談かと思ったけども、アレフ本人はまるでその気で、既にメックに乗るつもりでいるという。
自分はメック戦士になろうと思ったこともないし、なれるとも思わなかった。ただの通信車両の乗務員だ。
人攫いがきっかけでメックに乗ろうという人間が現れるとは。現実味がなさすぎて、理解が追いつかない。
だが、それ以上に信じがたかったのは、目の前のコボルが、常識で怒っていることだった。
オチルの目には、コボルは得体の知れない人間だった。
喋りは巧いし、技術にも詳しい、金勘定もできる。
だが、どこかいつも影があった。
何を考えているのか、何か別の目的を抱えていそうで、あまり味方だとは思っていなかった。
そのコボルが、「人としてどうかしてる」と言わんばかりに、ドルジに食ってかかっている。
常識なんて鼻で笑いそうな男が、“普通の倫理”で怒鳴っている。
オチルはそんなことに安心していた。
叫びと怒号がひとしきり飛んだあと、コボルが黙ると、部屋の空気も自然と落ち着いた。
結局、アレフの事故の件の事後処理は彼に一任されることになった。
誰も異を唱えなかった。というより、他に適任と言える人間を誰も思いつかなかった。
聞くところによれば、彼は捕虜としてこの基地に来た。
だが、気づけば誰よりもこの基地の内情に通じている。
指揮官として前に立っても、誰も首を傾げなくなっていた。
この日も、彼が立案した気圏戦闘機の哨戒作戦が発令され、付近の宙域では海賊狩りが進行中だった。
オチルは、どうして誰も彼を問題にしないのかがわからなかった。
気づけば、隣のボルドが呆然と口を開けていた。
オチルはそれを見て、ふと先日の戦闘を思い出した。
今日の傭兵団との交戦。
バトルアーマーで前線を張っていたボルドたちは、火花の中で照準器を握りしめ続けていた。敵の猛火にさらされながら、ボルドは撤退の判断ができないでいた。撤退のタイミングの判断の遅さは彼の弱点だった。
そんなボルドにドルジは「退け」と、それだけを告げて彼は前に出た。
結局、任務達成はならなかった。
だが、全員が生きて帰れた。ドルジのTimberWolfは大破寸前だったが、修理可能な範囲で戻って来た。
敵のWolverineパイロットは、重傷で搬送されたと聞いている。
個々の戦闘の成否ではなく、目の前ではドルジもコボルも今後の話をしていた。
コボルとドルジは考え方が違った。
しかし、どちらも「指揮官」としての軸を持っていた。
この基地を放って地球に発った前任の司令官は、それがなかったように思う。
正直、彼らが何を考え、この基地に何をもたらすつもりなのか、オチルには分からない。
だが今は、それでも――
胸のどこかが、わずかに熱を帯びていた。