Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Chastre LIC Hideout
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
5 December 3151
「《スレッジハンマー》、KitFoxへの救援は無意味です。前進してください。」
ファーベは通信機からCrossBowに指示を出す。
強襲強奪作戦で重量級の氏族メックが後方でぼんやりしているのは無意味だ。
特にエミリーヤのメックにはマニピュレーターがない。
物資を持ち運ぶための手がないのならば、彼女は社畜兵団が使う中心領域のOstsolやGriffinよりも前に出て相手メックの砲撃を装甲で受けるべきだった。
少なくとも、味方の陣地の後方を荒らしまわる敵メックに対処するのが彼女の役割ではない。
『トヤーちゃんを見捨てられないわ。』
エミリーヤはファーベの指示を無視して、KitFoxを襲うカロリンジャンのBansheeに全ての火力を投射し続ける。
既に水平器を損傷していたメックが彼女の猛攻で更に核融合エンジンを損傷した。
それでも、彼女は追撃をやめない。
──ちゃん?今、「ちゃん」と言ったか?
ファーベは彼の隣で社畜兵団の支援をしているエージェントの表情を伺う。
出撃する前から彼女の様子はおかしかったが、戦場に飛び出してからは殊更に言動が安定していなかった。
その理由をファーベはクリエフチがロキの本部から見捨てられたからだと思っていたが、それは見込み違いだったかもしれない。
原因は傭兵契約に従って、戦場にやってきたKitFoxのパイロットだった。
エミリーヤのことを「オバちゃん」呼ばわりした少女が、彼女の行動を狂わせている。
少し前までならば、乱心したエージェントに処理班を送るところだ。
だが、今や片手で数えられるほどの数になった彼らにそんな余力はない。
寡勢となった彼らには行き場も逃げ場もなかった。
本国からの回収もなければ、救援もない。クリエフチから脱出する手段も残されていない。
シャストル郊外の宇宙港は公爵軍の空挺部隊に狙われて、既に封鎖されている。
一度は氏族の強襲突撃兵の一団の襲撃によって奪回されたと聞いたが、その後再び公爵軍の手に落ちた。
唯一の宇宙への出口はシャストル基地だったが、そこに残された船は2隻。
そのどちらもが、SeaFoxとJadeFalconの2つの氏族によって固く守られている。
徐々に戦禍の気配が迫るシャストルの周辺で、そこだけは公爵軍ですら近寄る気配がない。
しかし、そこにしか逃げ道がないとは言えど、ファーベ達が氏族の残党であるドルジの部隊に媚びを売る意味はない。
彼らからしてみれば、ファーベ達は国境を越えて隣国からやってきた工作員だ。
今は手を結んでいるように見えるが、扱いは公爵の軍勢と変わらない。
利用価値を失えば、彼らは遠慮なく潰される運命にあった。
契約した戦力を寄こせずに、軽量級のメック単騎しか用意できかったのだから、契約不履行ではないか?
一瞬そんな考えが閃いたが、ファーベは首を振る。
そもそも彼らがビーチに投射した戦力のことを考えれば、彼らが契約そのものにはあまり興味を示していない。
彼らが本当にこの地の執政の悲鳴に応じただけなのは明らかだった。
エミリーヤたちの頭の上を舞う翡翠色の戦闘機が、どの契約に従っているのかファーベには判断がつかない。
完全にとは言えないが、5倍の数の敵を独りでよく防いでいた。
『やだよ、まだ負けてないもん。』
片脚を失い、右の肩を砕かれたトヤーの声が通信機の向こうから聞こえてくる。
数十トンの重量差を覆して、Bansheeの足を止めた彼女はまだ戦意を失っていない。
ファーベやエミリーヤがBansheeのパイロットならば、例え彼女が降っても生かしはしないだろう。
未来の脅威になるのは間違いがないからだ。
しかし、傭兵の世界はそういうものではない。
『もう無理だ。命だけは助けてくれ!』
メックの腕部を損傷した社畜兵団の傭兵が我慢の限界を迎えて、メックごと逃げ始めた。
エミリーヤが叱咤するが、彼らの仕事はここで根性を見せることではない。
彼らは彼らの判断で限界を見極めて、取り返しのつかない被害を負う前に退却の判断をする。
帰り道も逃げ道もないエミリーヤ達とは条件が違う。
いつの間にかKitFoxとの通信が途絶えている。
こうなるまで戦い続けることを傭兵に求めてはいけないのだ。
「我々の負けです。退いてください。」
ファーベは通信機のマイクに向けて、声をかける。
そもそも、この作戦が成功したところで時間稼ぎ程度の効果しかない。
全ては手遅れだった。
「エージェントエミリーヤ、応答願います。」
返答がないことにイラつきを感じながら、もう一度声をかける。
そして、異常に気が付いた。
──本当に手遅れだったか。
席を立って、ファーベが銃器を収納した棚に駆け出すのと通信室の扉が開いて銃声が響いたのはほとんど同時だったかもしれない。
侵入者の銃口は真っ先に彼に向けられた。
息を引き取るまでの僅かに残された時間で、ファーベは全身を軽量のアーマーで固めた兵士たちに仲間が殺されていくのを見届ける。
どんなに意識を繋ごうとしても、視界が赤く染まればもう諦めるしかないと分かった。