Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Shack side by Country road
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
5 December 3151
「我々は360度みっちりと囲まれています。」
棒の先の取り付けた平たい金属片で辺りの様子を調べながら、ナランは辺りの状況を口にした。
「良い知らせと悪い知らせが全部で4つある。どれから聞きたい?」
敵の狙撃手を警戒して、ゾリグは床を這うように相棒に近づく。
海岸からの撤退の最中に、公爵軍の全身を黒く塗った歩兵部隊と遭遇した2人は今は一軒の民家に立て籠っている。
車列の先頭を走っていたゾリグとナランの乗った指揮通信車は敵に腕利きにタイヤを撃ち抜かれた。
ハンドルの操作を失った車は、この大きくも無ければ、頑丈でもない家に頭から突っ込む。
他の車両を先に逃して、ゾリグとナランは車載の機銃と大型のライフルで抵抗した。
2人で10人以上の敵を倒したが、更に多くの分隊が迫り、今は睨み合いをしている。
周囲に障害物のない見晴らしのいい一軒家から逃げる手段がなかった。
相手がその気にさえなれば、いつでも家屋ごと蜂の巣に出来る。
敵がそれをしないのは、ナランが重装備を抱えていた小隊の兵士をことごとく対物ライフルで砕いたからだ。
ゾリグの問いにほとんど身動きもせずにナランは答える。
「悪い知らせから、伺いましょうか。」
「指揮車の通信機はオシャカだ。受信はできるが、こちらからの発信ができない。車載の通信装置は爆破処理するしかないな。」
2人の生存をシャストル基地に伝える手段がなかった。だから、仮に誰かを助けに寄越されたとしても、それを知ることすら難しい。
ナランは小さく頷くと次を促す。
「シャストルの宇宙港が陥落した。公爵の空挺は海岸の部隊と合流せず、ほとんどが内地に展開したらしい。俺たちの周囲にいる奴らもその空挺の一部だ。」
相手に空の大玄関を奪われた。
そうなると、時間が経てば宇宙港には公爵側の降下船やプロペラで飛ぶ輸送機が何機も降り立つことになる。
オスキャルの降下船の打ち上げには、わざわざ宇宙港の管制塔の指示を仰ぐ必要はない。
だが、宇宙港からなら、シャストルの上空の全てに目が届く。
打ち上げの瞬間、降下船は無防備だ。
宇宙港からのレーダー照射を受けながらの飛ぶのはできれば遠慮したい。
「あまり良い状況ではないということですね。」
ナランが少し身を起こして、金属片を床に置いて代わりにライフルを手に取る。
この2ヶ月の公爵側の動きは素早く、動きは柔軟でアグレッシブだ。
リンツで相手の将官を何人も焼いた結果、サボール家の公爵は自分の軍隊の手綱を取りやすくなっているようにも見える。身分だけで地位を手に入れた将官がごっそり居なくなったことを案外公爵は喜んでいるのかもしれなかった。
「せめて宇宙港の目は破壊したいですね。」
ナランの願望を達成できそうな手札が今のドルジ隊にはない。
執政から提供された分も含めて、ArrowⅣの残弾は全て打ち尽くしてしまった。
窓の外に銃身を差し出して二回だけ、ライフルの引き金を引くとナランは再び床に這う。
「3つ目も悪いことですか。」
「残りの機関銃の弾は480発、ライフルは今の2発で残り23発になった。今晩にも脱出しないと俺たちはここを保持できない。」
ゾリグはナランに自分のこめかみを叩いて見せる。
「幸い敵の空挺はスコープを持っていない。」
今の時代に夜間用の視覚補助装置を持っていない空挺とは珍しい。
だが、目の前の部隊は少なくとも全員が装置を頭につけている様子がなかった。
夜間になればわずかにゾリグ達が有利になる。
「では、良いことは?」
大男は手にしていた大砲を床に置く。
携行している弾の残りを考えると、もうあまり多用できない。
「先行していたボルド隊が無事に基地に戻った。要するにバトルアーマーは数時間で俺たちのところに来れるような位置にはいない。」
「悪い話のように聞こえますが、それはひとまず安心ですね。」
彼らが戻ったということは、海岸の守りについていた少年兵達がシャストル基地に一緒に帰還したということだ。
歩兵部隊のトラックと足の遅いミサイルキャリアーを分けて帰還させたのが正解だったのか、不運だったのかはわからない。
ただ、ビーチアーヴから少年兵達を撤退させるという任務は完遂できた。
ゾリグは自分の手首に目を落とす。
こういう時のための安心のお守りは、いつの間にかどこかで千切れて無くなってしまっていた。
「アンネは俺たちを探知できないかもしれんな。」
「彼女はまもなく臨月です。頼りにすべきではありません。」
なんだそりゃ?と尋ねると、ナランは臨月とは出産の直前の状態だと答える。ゾリグには出産の話は何も分からない。
鉄の子宮から産まれることが当然の世界に生きていた氏族の戦士には、それはほとんど異世界の言葉に聞こえた。
「私からも話が3つあります。」
困惑の表情を浮かべていると、ナランが口を開く。
「ここの家主は小型の無線機を持っていました。古い型でしたが、我々の故障した無線機の不足を補えます。」
ゾリグの腕ならば、小型の無線機の方に機器を加えることで我々の通信機にすることができるかもしれません。
ナランは朽ちた机の上を指さしながらそう付け加える。
ゾリグはその小型の電算機を思わせるような黒い機器を手に取ってみた。
端末には、小さな液晶の画面と女性か子供の手でしか押せそうにないキーボードが付いている。
黒い革張りの裏蓋を開けてみると機械のサイズの大半はバッテリーパックなのだということが分かった。
「やってみよう。もう一つは?」
「敵の戦車が向かってきています。ここへの到着は日没後ですが、砲塔に照明器が付いているはずです。」
ナランが敵の兵士から奪った通信機を指しながら言う。
それが到着する前にこの小屋を出なければならない。
「最後は?」
この流れは次が一番悪い話だろうな。と覚悟を決めて、ゾリグはナランに訊く。
しかし、普段はあまり表情を変えることのない大男が僅かに満足そうな表情を浮かべる。
「ドルマーが。2番機がここに来ます。」