Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Chastre SpacePort
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
5 December 3151
──生き残ってしまった。
エミリーヤは気持ちが沈んでいくのを抑えられなかった。
傭兵との物資の争奪戦に負け、逃げ帰った。
逃げ帰った先で、かつての仲間達の亡骸を見つけることとなった。
そして今、
「右側から新手。ロケット砲持ちがいるよ。」
エミリーヤの言葉に反応してCrossbowの右腕が飛び出してきた歩兵達の方に向く。
砲火が交差した次の瞬間には歩兵達は赤い煙のようになって、そこから消えた。
「オバちゃん、言葉が難しいよ!アラテって何さ、カラテの親戚っ?」
機体の操縦桿を握っているトヤーが大声で苦情を叫ぶ。
彼女の座る席は本来は彼女のものではない。
だが、この機体は既にエミリーヤの支配下にはなかった。
重苦しいニューロヘルメットと冷却スーツから解放された。と言えば、良いことのように聞こえる。
だが、それは正規の手順を踏んでいればの話だ。
このメックは、彼女によってニューロヘルメットを介さずに不正に乗っ取られた。
Crossbowを乗っ取った彼女の身体の表面は薄く光る緑色の線が浮かんでいる。それはまるでタトゥーというよりは、まるで彼女の血管が光っているようにも見えた。
これが、彼女が身軽な服装でメックと一体化できる秘密なのかと息を呑む。
公爵の部隊が投下した物資の確保に失敗したエミリーヤ達は、破壊されたKitFoxを戦場に置いたまま撤退した。
途中でトヤーを拾ったエミリーヤは、わずかに悩んだが結局そのままLICの秘密基地に帰還する。
基地のハンガーに辿り着いた彼女を迎えたのは秘密基地を急襲した公爵の空挺部隊だった。
「ハンガーを脱出して、逃げろ。」
エミリーヤのその命に逆らい、トヤーは一瞬でCrossbowの操縦系を乗っ取ると、エミリーヤを襲っていた公爵の特殊部隊を迷わずに肉塊に変えた。
機体にエミリーヤを載せ、ドルジの部隊に合流しようと基地を脱出する。
逃避行のさ中に、シャストルの宇宙港での騒ぎをトヤーが見つけた。
焦点が合っていないように見えるトヤーの両目はメックの視覚センサーを通じ、彼女の視力の限界を越えて遥かに遠方を見ている。
彼女の両手は操縦桿を握っているが、それを手の力で操作する必要はない。コクピットが彼女の意思を読み取って、それらを全て処理する。
視覚だけではなく、今の彼女は五感の全てをこの機体と共有していた。
──解析のためにそのままにしておいたが、ここで役に立つとはな。
全ては手遅れだったが、この小さな少女がメックを重い装備無しで操る姿を、実際にこの目で見れたということにエミリーヤはどうしてか感動すら覚える。
「オバちゃん、お爺ちゃんとこの兵隊さん見つけたよ。」
トヤーが機体の右腕をそちらに向けて、ぶんぶんと振る。
コクピットのサブモニターに表示された映像で、彼女の言う味方がシャストルの守備隊の少年兵であることがわかった。
エミリーヤはため息をついて首を振る。
まだ、ビーチアーヴに集った老兵たちの生き残りは浜とシャストルを繋ぐ道の各所で公爵の部隊を襲っていると聞く。
だが一時とは言え、公爵の部隊はこの宇宙港すら制圧に成功している。
もう、シャストルの陥落は時間の問題だった。
「あの少年兵たちも行き場はないのだな。」
エミリーヤはボソッと呟く。
戦争の常とは言え、敗軍の兵士の扱いというものは凄惨なものだ。
退路を確保してあるドルジ隊と違って、彼らの末路はLICのエージェント達とさして変わらないだろう。
我ながら、らしくない感傷に浸っているな。と嗤った。
「先月の最初くらいにお爺ちゃんとアレフっちとドルジが相談してたけど、生き残れた若い子はみんなシャトルでアリィナに行くんだって。」
トヤーの言葉にエミリーヤは言葉を失う。
「ドルジはみんなをズデーデンに送るって言ってたんだけど、お爺ちゃんが嫌がってさ。なんでだろね?」
執政が氏族の商人階級の出身だからだろうか?様々な想像が頭の中を駆け巡った。
気が付けば、公爵の部隊の抵抗は止んで、宇宙港の銃声は止んでいる。
トヤーは何人もの少年兵たちと名前を伝えあい、互いに勝利の喜びを分かち合っていた。
彼女たちの話に耳を聳てていると、少年たちも烏合の衆ではなく、黒ミイラと呼ばれる指揮官に率いられていることがわかる。
次第に、エミリーヤは彼女が抱える最大の問題に辿り着く。
退路がないのは、彼女だけだった。
執政は最後まで首都に残るつもりなのだろう。あの爺はそういう人間だった。
老兵たちはそれぞれが求め続けた死に場を得るのだろう。
老人たちに退路は必要がない。
「そーいえば、オバちゃんどうすんの?シャストル基地にいてもボッチだよ?」
トヤーの残酷な問いに何と答えればいいのか迷って、エミリーヤは視線をコクピットの床に落とした。