Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Pad2,Union Class Dropship,Bridge
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
6 December 3151
勝つまで戦い続ければ、負けることはない。
世の中にはそんな滅茶苦茶な理屈を振りかざす人間もいる。
取り返しのつかないことになる前にその間違いに気が付けばいいが、そうでないことも少なくない。
今の地球は、その取り返しのつかない状態に近いという。
ナランとゾリグは無茶をせずに逃げ切った。
剥き出しになったセンサーをドルマーに蜂の巣にされた戦車は2人を捕捉できず、一発も主砲を撃たずに終わる。
戦場の方はとりあえず、一息ついたと言っていいだろう。
問題は、この艦橋の方だった。
オスキャルは慣れた手つきで金属製の器具を使ってガラス容器の蓋を開ける。
密閉が解けたのをいいことに、中の液体が外に溢れようとするが、その企みは瓶の口の手前で止まった。
溢れるか、溢れないかのギリギリを楽しむのが通というもの。
「その昔、地球ではコイツが軍需物資だったこともあるそうだ。」
黒い液体を口に流し込むと、老艦長は古い知識を披露する。
しかし、目の前に立つアレフはそんなものには興味がなさそうだった。
「つまり、どういうことです?」
「お前さんの提案にゃ、娯楽が足らねぇってことさ。」
訝しげな顔をして首を傾げる若者にオスキャルは注文をつける。
人は利益だけじゃ動かないってやつですか。ボソッと呟くとアレフは落胆したような顔で手元に目を落とした。
彼の手の平にはまだ小型の光線銃が収まっている。
アレフはまず、堂々とそれを艦長席に向けて脅しをかけてきた。
だが、オスキャルがそんなものではビビらないとわかると、次は交渉をしようと色んな提案を持ち掛けてくる。
──一発くらい、撃ちゃいいのによ。
光線を相手に当てる必要はない。
だが、示威すらしないというのは、迫力と現実味にかける。
脅しに説得力を持たせるならば、引き金くらいは引いて見せてほしいと思う。
これが、ドルジだったならば、まずは何も言わずに一発ズドンと行く。
明確な意思と実行力。
アレフの言葉と行動ではそのどちらも認められない。
こんなもので、合格点をくれてやるわけにはいかなかった。
「まぁ、交渉決裂ということで承知しました。」
あっさりと期待を裏切る様に光る凶器は彼の胸の内側にしまわれてしまう。
粘る様子も、条件を上乗せする様子もなく、何事もなかったとでも言うようにアレフは両手をひらつかせる。
「この件は口外無用でお願いします。僕も小さな娘に手荒なマネをするようなことはしたくないので。」
「おお、怖いねぇ。SeaFoxは脅迫でも恐喝でもなんでもやるな。」
薄い笑みを張り付かせた表情に、オスキャルは余裕の笑みを返す。
更に残り半分ほどになった瓶の中身を顔の横で振って見せる。
困り顔を見せたアレフから、短い電子音が鳴った。
ポケットから小さな端末を取り出すと彼は艦長席に背を向けて、短く息を吸う。
「やぁやぁ、ローリングストーンズはんにわざわざ折り返しご連絡いただけるとは光栄ですわ。おおきに。」
突然繰り出される陽気な声にオスキャルは豆鉄砲を食らったような気分になる。
さっきまでの冷え切った交渉の空気とはまるで真逆。
「今日、紹介さしてもらいますのんは、この14C2型のLongBowでんねん。」
訛りの強いさも得意そうな口調で、彼はライラ共和国産の強襲級のメックの名前を口にする。
アレフとは距離が空いていて、相手の反応までは聞き取れなかった。
「間接攻撃の有効性ちゅうもんはご存知の通りや。しかもなんと、この機体はC3搭載しとんねん。お宅の他の機体との相性もばっちりやねんで。直接射撃でもきっとええとこ見せられまっせ。」
端末を手にしていない側の腕をぶんぶんと振るって雄弁に語っているが、ホロ通信でない以上その身振りは相手には伝わらない。
熱弁するときのクセのようなものなのだろう。
今の傭兵たちがSeaFoxを通じて仕事を得ている以上、数ヶ月の遅れはあるかもしれないが、だいたいの情報は手に入る。
降下船の艦長をやっていると傭兵を運ぶ仕事を受けることや、傭兵に仕事を依頼することもあった。
ローリングストーンズの保有するメックについては、手続きさえ踏めばオスキャルの立場ならばいつでも確認ができる。
知る限り、彼らは間接攻撃に特化したメックは持っていないはずだった。
「いや〜、信じられへんやろな。このご時世に、なんとこれがたったの800万やで。お買い得でっせ。」
アレフがポンと提示した金額に首を傾げて、手元でこっそりと市価を確認する。
メックが貴重品とは言え、彼の提示した値段はその1.5倍だった。
「高い?ウチも儲け取らんと横流しになってまうさかい、ちょっとばかりの嵩増しは分かってもらいたいねん。」
──1.5倍はちょっとじゃねぇよ。
心の中で商人の物言いにケチをつける。
市価との差額だけでも、次の星系に行くための輸送費をチャラにできる額だ。
市場に現物がないとはいえ、1.5倍の値段を吹っ掛けて相手は首を縦に振るのか?
「さすがやね。まいど。お支払いはSea-billでっか?おおきに!」
少しだけ間を置いて、商談は突然終わる。
──買うのかよ。
金があるところにはあるもんだな。とオスキャルは首を振った。
希少性は理解できる。だが、そこまで欲しいものなのか。
船乗りしかやっていない彼にはわからない世界だった。
しかし、今はそれよりも気になっていることがある。
「おめぇよお、なんで俺にはその訛り口調じゃねぇんだよ。」
「やる気がなかったからです。」
問い詰めるような口調で食ってかかれば、ゆっくりと彼を振り返ったアレフはあっさりと老艦長の問いに答えた。
半ば諦めたようにため息すら漏らす。
「例えば、僕が歩兵を一個小隊を率いてきたとしたら艦長ならどうしますか?ワクワクするでしょう?」
どの船でもハイジャック対策のマニュアルというものがある。
不思議と、それを使う機会というのはあまりない。
「まぁ、するけどよ。」
左の手に持った瓶の底に残った液体を全て口の中に流し込む。
空になった容器を振りながら、よっと声を出して席から立ち上がる。
「ワクワクもするし。なんなら、こっちから一発撃っとけば良かったと思ってるさ。」
顔を顰めるアレフに見せつけるように、オスキャルは右の手に握っていたものを宙に放った。
──ドルジのやつほどじゃねぇが。
トリガーガードに指を入れ、クルクルと回転のスピードを上げる。その後にいったん止めて、今度は逆回しに切り替える。
手の向きを変えて回転を横にした後に、左手の瓶と持ち手を変えて見せた。
最後にリボルバー銃を高めに放って、空き瓶を左手に戻す。手元に落ちてきたグリップを右の手で握る。
「大したもんだろ?」
自分の芸のデキに満足したオスキャルは、アレフに感想を求めた。
肉体の衰えの割にうまくいったのだが、ウケはいまひとつ良くない。
「なんちゅうものを隠し持ってるんですか。」
僅かに首を傾げるだけで、彼の口からは称賛も感嘆も出てこなかった。
仕返しなのか、アレフは揶揄してみせる。
「撃って見せてはくれないのですね。」
「艦橋でぶっ放すと、ナランとサチコが後でうるせぇんだよ。」
本来は彼の言うように、宙に放った空き瓶を撃ち抜いてフィニッシュにする流れだ。
オスキャルは口の先を尖らせて、不貞腐れる。
アレフはそうでしょう?と言って、通信席に戻っていく。
「ボクだって怒られるのはイヤです。」
椅子に座った後で、結構、彼女は怖いですからね。と、彼は肩で笑った。