Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.18_01
Fort Chastre Pad2, Union class Dropship , Bridge
Krievci System ,Chastre
Jade Falcon
14 December 3151
「交代です。」
短い、事務的な声がちょうど仕事をひと段落させたオスキャルの手を止めた。
「降下船の打ち上げ前日に、交代だなんて言っている余裕があるのかね。」
「なさるべきです。後は引き受けます。」
ナランの面白味のない返事も、慣れると色々分かることがある。
──俺に用事があるヤツって言うと、誰だかね。
彼がこういう言葉回しをするときは、来客がある時だ。
こう見えても、長いこと艦長職をやってるとそれなりの人数の人間が彼にが会いに来る。
仕事の用事のやつも居れば、人生に迷ったやつもいる。
だが、今のこの船でちゃんとマテが出来る人間となると数が途端に限られた。
「休む暇ねぇじゃねぇか。」
「ですから、交代。と申し上げました。」
老人のボヤきに大男は律儀に返事を返す。
一回りも歳は離れていないし、違う氏族とは言え、お互いに氏族側の人間だった。
半年も同じ釜の飯を食べて、同じ船の上に住んでいれば、お互いにどれだけ性格が悪いかはわかっている。
「4時間空ける。緊急時は俺を待つな。判断は任せる。格納庫の作業の遅延は放っておいていい、俺がドヤし付けて来る。」
慣れた席から腰を上げて、必要なことだけを伝えるとその場で大きく伸びをした。
応、というナランの返事を聞いてから、持ち場を離れる。
この船には艦長室というモノがない。
元々はあったのだが、彼がこの船を手に入れた際に「艦長は艦長席に居るものだから、艦長席など要らん。」とイキって無くしてしまったのだ。
それ以来、ロッカーと仮眠用のベッドだけがオスキャルのスペースだ。
ロッカーから溢れた私物は艦橋の裏の会議室にまるで調度品のようなフリをして置かれている。
「俺に用事とは珍しい。」
持ち上げたオーロラ級降下船の模型を元のように降ろせなくて困り果てた様子の女医にスッと後ろから手を貸して見せる。
模型を戻すと、一瞬だけお互いの視線が合わさる。だが、すぐにシタは目を静かに逸らしてしまう。
その様子を見て、オスキャルはガハハと大きな声で笑った。
「短い間に随分と上玉に育ったもんだな。」
シタと対面の椅子に座りながら、遠慮のない一言を放つ。
「女ってのは、勝手に身体の揺らしかたを覚えるものなのかい。」
胸の前で丸いものを持ち上げるような仕草をして見せるが、肝心の本人はそれに何の表情も返さない。
どこからともなく黒髪の女がお盆に紅茶のセットを載せて現れる。慣れた所作で二人の前で静かにカップを並べ、ポットの先を回すように揺らしながら2つのカップに液体を注ぐ。
薄く湯気の立ち昇るカップを二人の席の前に差し出した。
ありがとう、と礼を言ったシタに女は笑顔を返す。
何も言わないオスキャルに何も表情を変えないまま、中指を立てて見せると女はそのまま何も言わずに部屋を去っていった。
「ワザと彼女に聞こえるように言ったわね。」
彼女の去った先を目で追いながら、シタが恨めしそうに言う。
何のことやらと惚けても、許してもらえそうにない。
「いい子じゃない、整備班の子でしょう?大事にしてあげてよ。」
黄色い整備服のままでなくても、この狭い船の中の人間なら、どこの誰なのかはすぐにわかってしまう。隠すだけ無駄なのは承知している。
「彼女、私のところに排卵剤貰いに来たわよ。」
だが、カップの中身を口に含んだタイミングを見計らったかのように女医が口にした一言には流石のオスキャルもむせ返った。
口元を抑えて、冗談よ。お返しよ。と笑われれば、頭を掻くしかない。
──若いやつは、油断ならんな。
あまりに激しくむせ返ったからか、部屋の扉が再び開いて、外から心配そうな表情をした顔が覗いた。
大丈夫だ。と手でサインを送って、彼女の頭を引っ込める。
肩で荒く息をしながら、オスキャルはこれ以上の無様を晒す前に、女医の用事を聴くことにした。