Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Pad2, Union class Dropship , Bridge
Krievci System ,Chastre
Jade Falcon
14 December 3151
「さっちー、ゴメンね。」
カップを片すのを手伝いながら、シタは謝った。
「いえ。働いてる方が艦長らしくてカッコいいですから。」
微妙な話の噛み合わなさと、何度も鼻を鳴らす様子に彼女の精一杯の強がりを感じる。
ドラコ連合の生まれだと言う彼女は東洋風の顔立ちに艶やかな黒髪とサチコという名前に加えて、この性格がそれを証明していた。
シタの話を聞き終えた彼女の恋人はすぐに艦橋に戻っていった。
対応が早いのはありがたいが、「サチコを大事にして」というせっかくの提言を無にされたのは少しいただけない。
「私、ドルジ様たちには感謝しているのです。」
茶漉しを丁寧に清める手を止めずに、サチコが口を開く。
唐突な話題に少し驚くが、シタは黙ってそれを聞くに徹した。
「もし、ドルジ様やゾリグ様がいらっしゃらねば、オスクは私と結ばれようとは考えなかったと思います。」
少し訛りのある言葉遣いと緩やかな口調で言葉が紡がれる。
「だから、先生も成すべきをなしてください。何卒、私のことなどお気になさらず...」
「彼のこと、オスクって呼んでるのね?」
何が彼女の不安を煽ったのか、シタにはわからない。
それでも、彼女はサチコの言葉を遮った。
「あなたのお腹の中に残ってたオタマジャクシと卵を調べたけど、あなたたちに薬は要らないわ。70手前のジジイとは思えないくらい元気だったから。」
オスキャルには趣味の悪い冗談をぶつけたが、彼女自身が彼の子を産みたいと悩んでいるのは本当だ。
半世紀近くも歳の離れた2人にとって幸いだったのは、母体の方が若かったことだろう。
条件さえ揃えば、あとはもう2人の問題だった。
「毎日ちゃんと体温は測ってるわね?」
シタの確認に彼女は頷きを返す。
サチコの手はすっかり止まっている。
「毎月、ちゃんと診るから。あと、体調が悪くなったらちゃんと相談して。...あとは、そうね。ジジイのを受け取る時は、腰を頭より浮かせてみると良いわ。」
最後の一言は医者としての助言ではない。女としての経験だ。
はい。と答える彼女の口調にはまだ迷いがある。
──聞こえてしまったのね。
耳にしようとしたのか、耳に入ってしまったのか。
もし、オスキャルと彼女の会話の全てを聞いていたのならば、いかにサチコとは言えど冷静では居られないだろう。それでも話の断片を知ってしまったサチコは、自分達の事よりもそちらの解決を優先して欲しいと懇願したのだ。
誰の耳があるかわからないような場所で、これ以上の話を彼女にさせるわけにはいかない。
「大丈夫よ。ドルジは誰のことも見捨てないわ。」
必要最低限のことだけを口にする。
余計な情報を与えずに、サチコが一番安心できるような言葉を選ぶ。
「よろしくお願いします。」
良いところの生まれなだけあって、サチコも多くは語らない。
ただ、頭を深々と女医に下げた。