Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Pad2, Union class Dropship ,
Break room
Krievci System,Interplanetary Space
House Sabor
22 December 3151
両膝を折り、かかとの上に尻を乗せ、座る。
背筋を伸ばして姿勢を正し、目を瞑って、呼吸を整えて、心に平静を齎す。
健全な心を保つためには、器たる己の肉体もまた健全で在らねばならない。
故郷に伝わる手順に従い、サチコは己の心との対話を始める。
地上に居れば、自然と耳に入る鳥の鳴き声や風の音はここには存在しない。星の海の中で自然と対話をしようにも、何と対話をすれば良いのか、いつも迷ってしまう。
──アンネ様であれば、星と対話をなさるのだろうか?
お見かけすることはあっても、お声をいただく機会もない。
まず、何よりもサチコは彼女が居るというお部屋の扉の前にすら立ったことがなかった。
頼れる存在を心の中で探そうとすると、すぐにオスクの顔が浮かぶ。これは雑念。と、頭のどこかにその姿を押しやろうとしても、退いてくれる彼ではない。
──なんでぇ、ここは俺の場所だろう?
他の誰にも渡さない。とばかりにそこに居座る彼のイメージに心を乱され、サチコは己の至らなさを知る。
心の中で中指を立てるが、そもそもここが彼女の心の中だということに気がつくと、更に心は乱れた。
いつでも、歩む道は自分で決めてきている。
エステロスで、この船での契約が終了となり皆が去った後もサチコはこの船に残る事を選んだ。
結ばれることは無いと知りつつも、艦長の側に居たいと思う己の心に素直に従った。
その結果、数日のうちに再び、別れたはずの皆と合流することになったことについては驚いたが。
それでも、大きな自然の流れには勝てない。
所詮、自分が選んだ道などは大自然が用意した選択肢のうちの一つなのだ。と思い知るような事をサチコは幾つも経験している。
──このままなら、トヤーの余命はあと半年。
シタの声が頭のどこからか再生された。
神経系がズタズタになり、正気を保てなくなって、自己認識と肉体が崩壊して苦しんで死ぬ。
出会ってすぐに「さっちー」というニックネームをくれたあの子がどうしてそんな死に方をしなければならないのか。そして、どうして自分にはそれに抗う力がないのか。
己の人生をどんなに振り返っても、自分にその力を得る機会があったようには思えない。
どこでどんな選択肢を選ぼうとも、サチコがトヤーを救う道筋を見つける手立ては無かった。
「さっちー、どしたの?」
突然、自分の顔の真正面から聞こえた声に驚いて、サチコは目を見開く。
鼻の先同士が触れ合いそうな距離から、彼女の目元を覗き込むトヤーと視線が合わさった。
「お顔、やっばいよ?」
ポケットから取り出した四角い布で、トヤーはポンポンと丁寧にサチコの顔に溢れた液体を拭き取る。
ありがとう、ごめんなさい。そう口にしながら、自分の手は動かさない。サチコは涙も鼻水もそのままトヤーに拭われるのに任せた。
精神統一を図ろうとして、いつの間にか泣いていたらしい。心の乱れを歳下の女子に覗かれたような気がして、少し顔が温かくなる。
「シタっち、呼んでこようか?」
泣いたり、赤面したりと同年代の女子からすれば、精神不安定に見えるのだろう。
特にトヤーはサチコがオスクとの最初の同衾を上手く進められず、悩んでいた頃を良く知っている。
だから、尚更気にしてくれているのだろう。
せっかく、トヤーにキレイにしてもらった頬を再び涙が伝い始めた。
しかも、今度は涙だけでは収まりそうにない。サチコの口から、嗚咽が漏れ始めて止まらなくなった。
心の中で「どうして?」が繰り返して止まらない。
──ごめんなさい、トヤー。弱い姉貴分を、どうかお許しください。
サチコは心の中で、何度も目の前の少女に謝った。
今これから、自分のためだけに、自分の妹分のような女の子の幸せが終わる話をする。
「トヤーちゃん。大事な話をするから、聞いてもらえる?」
どんな反応が返ってくるのかは分からない。
罵ってくれても構わない。嘘だと思ってくれても構わない。少しでもこの重荷を分かってくれる人が欲しかった。
もう堪え切れない。
「いいよ〜、さっちーのお話だからね。」
整備服の前のジッパーを腰の所まで降ろして、上半身を肌けたトヤーが脚を組み替えた。
とことん付き合ってくれる姿勢になった彼女の姿に心の支えが一つ外れたように感じる。
サチコもまさか当人とこの重荷を分つことになるとは思ってもいなかった。