Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union Class Dropship,Medic Room
Krievci System,Interplanetary Space
House Sabor
24 December 3151
「トヤーちゃんの皮膚のすぐ下に埋め込まれた神経インプラントは彼女のようにメックについての知識が少ない子でも直感的に操縦できるようになる技術なの。」
トヤーがニューロヘルメットも使わずに自在に機体を操れる理由はこの装置に拠る。
この装置があるために彼女の身長や一部の身体の発達は遺伝子的に抑制されていた。
なぜだ?なぜトヤーが死ななければならない?と問うゾリグにシタは丁寧に彼女に使われている技術の説明から話すことにする。
患者やその親族に理解をもらうには必要な話術はだった。
医務室のディスプレイに映した画像を指差しながらできるだけ丁寧な説明を心がける。
中心領域の医師が氏族の戦士に氏族の技術を解説しているというのは、不思議な体験だった。
「機体側に強化画像システムを採用していないと有効に機能しないんだけど、彼女の場合はKitFox、氏族メックに乗り続けているからウチの子になった時にはメック側の問題はクリアしていたみたいね。」
彼女が以前に乗っていたというJennerIICがどうだったのかは確認のしようが無かった。
トヤーに問診した限りでは、彼女と前の乗機には今ほどの密接な繋がりが無かったと言う。
つまり、メック側にトヤーと接続する機器が無かったと考えられた。
「このインプラントには、操縦側へのフィードバックがあるの。そのうちの一つがメックの損傷のダメージが電子的刺激としてパイロットの神経に伝わること。」
感覚の伝達は一方向ではない。視覚や平衡感覚のような情報を共有して、パイロットが直感的に機体を操作を出来る。その代わりに、痛みのような情報もパイロットの神経を焼く。
パイロットの精神は不安定になり、神経は恐ろしい速度で摩耗する。
ここ数回の戦闘でトヤーのKitFoxは数度に渡って壊滅的に破壊されている。何度か救援に駆けつけたゾリグの表情が翳った。
そう、彼女はもうとっくに発狂していてもおかしくないほどのダメージを神経に受け続けている。
「トヤーちゃんの余命を伸ばす方法はただ一つ。インプラントを取り除くしかないわ。」
ただ、そうすると彼女は今までとは同じようなメックの操作が行えなくなる。
パイロットスーツとニューロヘルメットは必須だ。
それに...。
「インプラントの無力化手術は専門医でも成功率が1/3程度、無力化したせいで後遺症が残る可能性もある。何より、私はその手術を行えない。」
ゾリグが静かに項垂れる。
希望のない話をあまりに立て続けにしてしまっただろうか?
だが、どの話も中途半端に伝えるわけにはいかないものだった。
「ここからが本題よ。」
「私達はアリイナに向かっている。ジャンプの回数を一回増やす必要があるが、今なら航路を少し変えるだけでツォンシャンの上を通れる。」
そこにはバヤルの主治医を務めた氏族インプラントの鬼才がいた。
彼はツォンシャン基地でシフのインプラント手術をする前からドルジ達とは不思議な縁で結ばれている。
彼が執刀をするのならば、トヤーが無事に手術に耐える可能性は飛躍的に上がった。
ただ、航路の変更には燃料代も含めて費用が必要。そこにコストを割くかどうかは軍医の判断ではない。
「手術をするか、しないかはあなた達が決めることよ。航路を変えるかどうかはあなたが決めて。」
──苦しい、通達の儀式はこれで終わり。
ここまで本当に心苦しかった。と振り返る。
ようやく、判断のボールを人の手に渡して自身は一息つけるところまでやってきた。
手渡された方の表情は絶望に染まっているが、こればかりは仕方がない。
シタは頑張ろう。と声をかけて、彼の肩に手を置く。
それにゾリグはほとんど反応しなかった。