※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

168 / 281
Ep.19_02

Union class Dropship , Bridge

Krievci System ,Zenith

House Sabor

25 December 3151

 

――どういうことなの?

 

 珍しいメンバーなんてもんじゃない。

 これがどういう面々の組み合わせなのか、オーケにはわからなかった。

 雑談だと聞いてお呼ばれしたが、この集団が自分に何を望んでいるのか、彼には想像が出来ない。

 オスキャル、ナランの艦橋組に加えて、医官のシタが腕を組んで並んでいる。

 その向かいには普段は聖域に閉じこもっているはずの3人の妊婦、アンネにツェレン、プリヤンカまでが長椅子に背をもたれかけていた。

 

――核戦争でも始める気か?

 

 この部隊の戦略と方針を定めるには、十分な人間が揃っている。

 整備班を取り仕切るオーケは、彼らの指示を受ける立場だ。

 

「つまり、あの伊達男はまだ心が決められないわけだ。」

 オスキャルが唸りながら、腕を組む。

 そのままの姿勢で振り返りもせずに、隣に立つ大男に声をかける。

「お前さんの相棒は、お前が居ないとポンコツだな。」

 戦闘機のコクピットでは戦場を俯瞰できるが、それが部隊の運営や方針の話になると彼は無力だった。

 判断の規模が大きくなるほど、彼は自分の意思を持てない。それがゾリグの欠点だとナランは首を振る。 

「自分で決められないことは、他者に決めてもらう。戦士ゾリグが一隊を任されない所以です。」

 オスキャルの辛評に、ナランは静かに頷いて、更に辛評を重ねた。

 普段の彼は黙ってゾリグの後ろに控えているだけに見える。

 だが、ただのでくの坊を、オスキャルが重用するはずがなかった。

 重苦しい表情と厳しい口調が、彼の助言者としての存在感を示している。

 

――で、何の件のお話なの?

 

 オーケはいよいよ困惑した。

 数時間前に指示された、ゾリグの機体の組み立てはまだ完了していない。

 バラバラにした5番機を再び飛べる状態にするには、まだ更に数時間の作業が必要だ。

 作業中に呼び出された理由を、更なる作業の追加だと踏んでいた彼の予想がハズレだったことは、オーケにもわかる。

 久しぶりにオスキャルからの労いの言葉でも聞いちゃおうかな?と軽く考えていた。

 だが、議題は搭載機の話でも、この船の話でもない。

 しかも、遅れて参加した彼だけが、話題についていけてなかった。

 

 オーケは、何もわからないままにひたすらに参加者の表情と言葉を追う。

 その場に同席しているアンネ達は何も喋らない。

 腹が大きくなってから、女達は人前に出てきていない。

 決定の場からは身を引いて、聖域で本でも読んでいるのかとオーケは勝手に想像していた。

 だが、この場では、オーケの方がよほど蚊帳の外にいる。

 彼女達は姿を見せないだけで、変わらずこの部隊に影響を及ぼしているのだと気が付かされた。

 

 延々と知らない単語を聞かされた末に、ようやくシタがヒントになる言葉を口にする。

「彼は彼自身の望みを言えないでいるのよ。トヤーちゃんは自分のことを彼氏に決めてもらいたがっているから、そこで...ね?」

 

――なんだよ、あのカップルがゴタゴタしてるのか。みんなで重苦しい顔をしてるから、何かと思ったぜ。

 

 ゾリグとトヤーの2人の仲は、この船の中でなら誰もが知っている。

 稀に喧嘩もするが、トヤーはゾリグを良く信頼しているし、ゾリグはずっとトヤーに夢中だった。

 2人の関係で、問題が起こるとすれば、些細な問題しかありえない。

 そうとわかれば、気楽なものだった。

 人の恋愛事情など、オーケの責任ではなかった。

 

「乙女心だねぇ。普段は引きずり回す側が待つ側になっちゃったってわけかい。」

「トヤーちゃんはピュアですからねぇ。」

 

 ようやく、議題にに入り込めたので、さっそくオスキャルと一緒になって難しい顔をする。

 すっかり軽い気持ちになったオーケは、うっかりと背もたれのない椅子の上でふんぞり返りそうになった。

 バランスを崩しかけて、慌てて危ねぇ危ねぇと姿勢を直す。

 そうでなくても、彼はこの場で一番下に近い階位の人間だった。

 

――で、2人に何が起こってるのよ?どんな痴話ケンカ?

 

 異郷の地の舞台俳優の離婚話なんて、面白くも何ともない。

 身近な人間の惚れた腫れたが、娯楽としては一番面白いとオーケは日々思っている。

 だから、そういう話題は大好物だった。

 

 しかし、ナランの口調はオーケの期待したトーンとは違う。

「ここで彼も、少しは男になるかと思ったのですが。」

 彼が口調に感情を込めるのは珍しい。

 歳若い相棒の成長を、彼なりに願っていたのだろう。

「トヤーちゃん本人は、どう思ってるんだい?」

 オスキャルはシタとアンネの2人に目を向ける。

「私の口からは、言えないわ。」

 女医が首を振り、黒衣の妊婦もそっと目を閉じる。

「正解はない。でも、彼女の意思が答えとなる。私たちが決めることではないわ。」

 そう続いた彼女の声は、口元をベールが覆っているにも関わらず、耳元で聞こえているかのようにオーケにはハッキリと聞こえた。

 

 肝心な部分を早く知りたくて、オーケは勝負に出る。

「あの男は何をそんなに悩んでるんだろうなぁ?」

 話題に潜む違和感の正体と、問題の核心をオーケは知りたかった。

 あのバカップルの間に、どんな問題が発生しているというのか。

 恋人を作ったことのないオーケは、興味深々だった。

 そんな彼の疑問に、珍しくナランが口を開く。

「彼の悩みは、恐らくトヤーさんの身体問題を解決する手術の成功率です。

 成功率が3割程度しかなく、もし手術をして失敗すれば、彼女の命はそこで終わります。

 手術を乗り越えても、彼女が手術前のように生活出来る可能性は半々と聞いています。

 しかし、やらなければトヤーさんの命はあと半年も保たないのです。」

「あと半年を大事にするか、2週間で終わるかもしれない分の悪い賭けをするか。で若造は悩んでるってわけだな。」

 トヤーの身体問題の詳細については、オーケは何も知らない。

 だが、ナランの説明とオスキャルの補足で、彼はついに一番大事な問題を理解した。

 

――バカヤロウ、激重案件じゃねぇかよ!

 

 オーケは心の中で悲鳴を上げる。

 事情がわかった後でも、ゾリグの悩みは分からなかった。

 トヤーがどう思っているかなど、彼ならすぐにわかるだろう。

「ウチの三人娘も、それを知ってるわけか。」

 シャロン、ペトロワ、サチコの3人はトヤーと仲がいい。

 最近の彼女たちの動きを見れば、あの3人もこの窮状を理解しているのは明らかだった。

 シタとナランが、オーケの呟きに頷く。

 どこまでの人間が、この内容を知らされているのか彼にはわからない。

 だが、それとは無関係にオーケは腹を決めた。

 

――彼女いない歴が年齢と一緒なんて関係ねぇ。やるべきことはやるんだよ。

 

 そう心の中で、自分に喝を入れる。

 座ってられなくなったオーケは勢いよく椅子から立ち上がった。

「そっちは任せる。」

 彼が何かを言う前に、オスキャルが彼に声をかける。

 ようやくオーケは自分がここに呼ばれた理由を理解した。

 長椅子に深く座りこんだツェレンが、申し訳なさそうな顔をしながら、彼に向けて小さく手を振るのが目に入る。

 身重の女性に頼られたような気がして、つい口元が緩みそうになったが、オーケは気を引き締めた。

 俺たちの仕事は終わった。とばかりに、艦長たちはカップを手に取っている。

 その様子に気がついて、オーケは口を尖らせた。

「全然、雑談じゃねーじゃん。」

 その一言に、オスキャルが悪い笑みを返すのを横目に見ながら、彼はそれ以上の問答を止める。

 オーケに課せられた仕事は、一人の少女の生命が掛かっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。