Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
Krievci System ,Zenith
House Sabor
25 December 3151
――どういうことなの?
珍しいメンバーなんてもんじゃない。
これがどういう面々の組み合わせなのか、オーケにはわからなかった。
雑談だと聞いてお呼ばれしたが、この集団が自分に何を望んでいるのか、彼には想像が出来ない。
オスキャル、ナランの艦橋組に加えて、医官のシタが腕を組んで並んでいる。
その向かいには普段は聖域に閉じこもっているはずの3人の妊婦、アンネにツェレン、プリヤンカまでが長椅子に背をもたれかけていた。
――核戦争でも始める気か?
この部隊の戦略と方針を定めるには、十分な人間が揃っている。
整備班を取り仕切るオーケは、彼らの指示を受ける立場だ。
「つまり、あの伊達男はまだ心が決められないわけだ。」
オスキャルが唸りながら、腕を組む。
そのままの姿勢で振り返りもせずに、隣に立つ大男に声をかける。
「お前さんの相棒は、お前が居ないとポンコツだな。」
戦闘機のコクピットでは戦場を俯瞰できるが、それが部隊の運営や方針の話になると彼は無力だった。
判断の規模が大きくなるほど、彼は自分の意思を持てない。それがゾリグの欠点だとナランは首を振る。
「自分で決められないことは、他者に決めてもらう。戦士ゾリグが一隊を任されない所以です。」
オスキャルの辛評に、ナランは静かに頷いて、更に辛評を重ねた。
普段の彼は黙ってゾリグの後ろに控えているだけに見える。
だが、ただのでくの坊を、オスキャルが重用するはずがなかった。
重苦しい表情と厳しい口調が、彼の助言者としての存在感を示している。
――で、何の件のお話なの?
オーケはいよいよ困惑した。
数時間前に指示された、ゾリグの機体の組み立てはまだ完了していない。
バラバラにした5番機を再び飛べる状態にするには、まだ更に数時間の作業が必要だ。
作業中に呼び出された理由を、更なる作業の追加だと踏んでいた彼の予想がハズレだったことは、オーケにもわかる。
久しぶりにオスキャルからの労いの言葉でも聞いちゃおうかな?と軽く考えていた。
だが、議題は搭載機の話でも、この船の話でもない。
しかも、遅れて参加した彼だけが、話題についていけてなかった。
オーケは、何もわからないままにひたすらに参加者の表情と言葉を追う。
その場に同席しているアンネ達は何も喋らない。
腹が大きくなってから、女達は人前に出てきていない。
決定の場からは身を引いて、聖域で本でも読んでいるのかとオーケは勝手に想像していた。
だが、この場では、オーケの方がよほど蚊帳の外にいる。
彼女達は姿を見せないだけで、変わらずこの部隊に影響を及ぼしているのだと気が付かされた。
延々と知らない単語を聞かされた末に、ようやくシタがヒントになる言葉を口にする。
「彼は彼自身の望みを言えないでいるのよ。トヤーちゃんは自分のことを彼氏に決めてもらいたがっているから、そこで...ね?」
――なんだよ、あのカップルがゴタゴタしてるのか。みんなで重苦しい顔をしてるから、何かと思ったぜ。
ゾリグとトヤーの2人の仲は、この船の中でなら誰もが知っている。
稀に喧嘩もするが、トヤーはゾリグを良く信頼しているし、ゾリグはずっとトヤーに夢中だった。
2人の関係で、問題が起こるとすれば、些細な問題しかありえない。
そうとわかれば、気楽なものだった。
人の恋愛事情など、オーケの責任ではなかった。
「乙女心だねぇ。普段は引きずり回す側が待つ側になっちゃったってわけかい。」
「トヤーちゃんはピュアですからねぇ。」
ようやく、議題にに入り込めたので、さっそくオスキャルと一緒になって難しい顔をする。
すっかり軽い気持ちになったオーケは、うっかりと背もたれのない椅子の上でふんぞり返りそうになった。
バランスを崩しかけて、慌てて危ねぇ危ねぇと姿勢を直す。
そうでなくても、彼はこの場で一番下に近い階位の人間だった。
――で、2人に何が起こってるのよ?どんな痴話ケンカ?
異郷の地の舞台俳優の離婚話なんて、面白くも何ともない。
身近な人間の惚れた腫れたが、娯楽としては一番面白いとオーケは日々思っている。
だから、そういう話題は大好物だった。
しかし、ナランの口調はオーケの期待したトーンとは違う。
「ここで彼も、少しは男になるかと思ったのですが。」
彼が口調に感情を込めるのは珍しい。
歳若い相棒の成長を、彼なりに願っていたのだろう。
「トヤーちゃん本人は、どう思ってるんだい?」
オスキャルはシタとアンネの2人に目を向ける。
「私の口からは、言えないわ。」
女医が首を振り、黒衣の妊婦もそっと目を閉じる。
「正解はない。でも、彼女の意思が答えとなる。私たちが決めることではないわ。」
そう続いた彼女の声は、口元をベールが覆っているにも関わらず、耳元で聞こえているかのようにオーケにはハッキリと聞こえた。
肝心な部分を早く知りたくて、オーケは勝負に出る。
「あの男は何をそんなに悩んでるんだろうなぁ?」
話題に潜む違和感の正体と、問題の核心をオーケは知りたかった。
あのバカップルの間に、どんな問題が発生しているというのか。
恋人を作ったことのないオーケは、興味深々だった。
そんな彼の疑問に、珍しくナランが口を開く。
「彼の悩みは、恐らくトヤーさんの身体問題を解決する手術の成功率です。
成功率が3割程度しかなく、もし手術をして失敗すれば、彼女の命はそこで終わります。
手術を乗り越えても、彼女が手術前のように生活出来る可能性は半々と聞いています。
しかし、やらなければトヤーさんの命はあと半年も保たないのです。」
「あと半年を大事にするか、2週間で終わるかもしれない分の悪い賭けをするか。で若造は悩んでるってわけだな。」
トヤーの身体問題の詳細については、オーケは何も知らない。
だが、ナランの説明とオスキャルの補足で、彼はついに一番大事な問題を理解した。
――バカヤロウ、激重案件じゃねぇかよ!
オーケは心の中で悲鳴を上げる。
事情がわかった後でも、ゾリグの悩みは分からなかった。
トヤーがどう思っているかなど、彼ならすぐにわかるだろう。
「ウチの三人娘も、それを知ってるわけか。」
シャロン、ペトロワ、サチコの3人はトヤーと仲がいい。
最近の彼女たちの動きを見れば、あの3人もこの窮状を理解しているのは明らかだった。
シタとナランが、オーケの呟きに頷く。
どこまでの人間が、この内容を知らされているのか彼にはわからない。
だが、それとは無関係にオーケは腹を決めた。
――彼女いない歴が年齢と一緒なんて関係ねぇ。やるべきことはやるんだよ。
そう心の中で、自分に喝を入れる。
座ってられなくなったオーケは勢いよく椅子から立ち上がった。
「そっちは任せる。」
彼が何かを言う前に、オスキャルが彼に声をかける。
ようやくオーケは自分がここに呼ばれた理由を理解した。
長椅子に深く座りこんだツェレンが、申し訳なさそうな顔をしながら、彼に向けて小さく手を振るのが目に入る。
身重の女性に頼られたような気がして、つい口元が緩みそうになったが、オーケは気を引き締めた。
俺たちの仕事は終わった。とばかりに、艦長たちはカップを手に取っている。
その様子に気がついて、オーケは口を尖らせた。
「全然、雑談じゃねーじゃん。」
その一言に、オスキャルが悪い笑みを返すのを横目に見ながら、彼はそれ以上の問答を止める。
オーケに課せられた仕事は、一人の少女の生命が掛かっていた。