Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Jail
Krievci System ,Zenith
House Sabor
25 December 3151
軟禁されているとは言え、そこまで広い船ではない。
その気になれば、エミリーヤは色々な音が聞くことができる。
実際に、彼女はここにいた数日で随分と色々な音を聞いた。
彼女が仕入れた話の中には彼の悩みのタネも含まれている。
よりにもよって、なぜ彼女に訊くのか?
何かの罠も疑ったが、目の前の彼からはそういう危険な香りは一切しなかった。
だから、警戒しながらも一応口を開く。
「私に悪意があろうと無かろうと答えは一緒ね。手術はするべきよ。」
理由はいくつもあるが、簡単な基準だ。
「手術をしようがしまいが手術が大成功しない限りは、もう彼女はメックに乗せられない。戦闘中に発狂されたら困るでしょう?」
そんな不安定な要素を戦場に出すような判断はしない。トヤーのメンタル面や腕前を含めても価値で言えば、ベテランパイロット程度だ。
代替できない単位ではない。
「半年未満で散る命ならば、それは戦力としてはいないも同然。頭数に入れるに値しないわ。」
ここまで言えば、彼も逆上して掴みかかって来るか。と思ったが、相談主は彼女の言葉を黙って聞いている。
どこまで、彼女が知ってることを漏らすかの匙加減は悩みどころだ。
「あとはコストの話。メック戦士1人を雇う価格と一回のジャンプにかかる費用なら、比較する方がバカバカしいわ。」
一時的な雇用なら話は別だが、トヤーのような戦士を外部から恒常的に雇用することは不可能だ。
戦力としての彼女ではない。組織の動力源としての彼女の価値はまだ伸び代に満ちている。
彼女がやると言えば、何人もの人間が彼女に協力するだろう。
将来の不安はあるが、この組織の中で今の彼女は既に宝石だ。
若さ故の部分もある。無知が故の部分もある。でも、それだけであのような綺羅星が育つことはない。
あの子と比べれば、ジャンプ費用などはした金だ。
「人の命に価値は無い。でも、才能は違う。あの子はメック戦士でなくとも充分。」
この評価は色眼鏡のかかった評価かもしれない。
でも、エミリーヤに色眼鏡をかけさせたのは彼女自身だ。
そのパートナーがこんなに頼りない男だったとは、ガッカリさせられる。
「私は彼女には出来る限り、長く生きて欲しい。そのためにはあらゆる手を打つべきだ。」
これは意見でも助言でもない。エミリーヤの自身の希望だった。
これさえ伝えられれば、もう彼女から彼への用事はない。
しばらく、彼のいる方を見向きもせずにいると、彼の気配がそこを去るのを感じた。
ふと、時々ここを訪ねて来る老人の顔が頭を過ぎる。
紅茶くらいどこでも飲めるだろうに、逃げられないのを良いことに、人を勝手に茶飲み相手にする勝手な男だった。
──ガツンと言うのは、苦手でね。
顔色の悪い若者がここに迷い込んだら、相手をしてやって欲しい。
だが、男はあのくらいじゃないと物足りない。
そんなことを考えながら、エミリーヤは小さく舌打ちをした。