Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Cabin
Krievci System ,Zenith JumpPoint
House Sabor
25 December 3151
――行くぜ、パワーアーム最大出力ッ!
金属の指先をガッシリと隙間に引っかけて、装置の出力を最大に設定する。
オーケの肩から指先までを覆う人工筋肉の塊は、途端に高い唸りをあげはじめた。
「今の俺はスーパーマッスルマン。」
頼もう!と声を張り上げて、スーパーマシンに包まれた両腕を左右に広げる。
スライド式のドアが火花を散らしながら、メキメキと音を立てて縦に裂けた。
――艦内設備破損、減棒確定!独房入りだけは勘弁な!
心の中で社則違反の罰則規定を唱えながら、オーケは脚を前に進める。
既に賽は投げられていた。ルビコンの河を渡る覚悟はできている。
「オラァ、ゾリグぅ腹決めろやぁ!」
トヤーちゃん泣かせたら許さんぞぉ。と半ばヤケになりながら、剛腕を振り回しながら部屋の奥へと突き進む。
無理にでもテンション上げて行かないと、中心領域の一般人が氏族の戦士に気迫で勝つのは無理だった。生身ならば、腕っぷしだって負けるに決まっている。
そう考えたオーケは、技術屋らしく、自分に足らない部分を機械で補うことにした。
取っ組み合いになることすら計算に入れて、ゾリグに挑む。
しかし、完璧だったはずのその作戦は、オーケが部屋の奥に至ったところで、足止めを食らった。
「あっ...、あッ...、あっ...!」
部屋中にこだまする少女の切なそうな声が、挑戦者の闘志を足元から叩き折る。
ジャンプポイントへの到着の時間が迫ってる最中に、ゾリグは寝台に仰向けになって、トヤーを上に跨らせていた。
少女は驚きの表情とも、達した表情とも、どちらとも取れる表情を浮かべながら、天井に向けて胸の先端を突きあげながら、嬌声を張り上げている。
タイミング悪く、ちょうどトヤーが気をやろうとしているところに、オーケは踏み込んでいた。
――これがホンモノ。
2つの大振りの房を両手で上に向けて持ち上げながら、肢体をくねらせて大きく背を反るトヤーの姿に、彼は目を奪われる。
ゾリグの胴を跨ぐしなやかな両脚を、まるでバネのように弾ませて、彼女は小柄な裸身を上下に躍動させていた。
彼が知るはずのない、彼女の艶やかな女の顔を、オーケははっきりと目にしてしまう。
トヤーの頬には涙が伝った跡が何本も残っていて、彼女の表情を濡らしている。
その流れの先は、彼女の身体の起伏を下まで駆け下り、男と女が深く繋がっている部分にまで辿ることができた。
短い噴射音と共に、そこからゾリグの胴の上へと透明な液体が撒き散らかされている。
ゾリグは自分の胸や腹が濡らされても、彼女の腰を掴む手を緩めることはなかった。
――これが俺の知らないトヤーちゃんッ。
あまりに強烈な視覚への衝撃と、何かがムクムクと起き上がる感覚に、オーケはつい怯んで、二の足を踏んでしまう。
「何ヤッてんノォ!」
オーケはつい、裏返った声で悲鳴のような間抜けな叫びをあげてしまった。
それに負けない声量で、トヤーが果てる。
「んんッ...、あッ...、は...、ゾリ...グぅ...。」
股の間から白い濁った液体を溢れさせながら、彼女の肢体はすっと糸が切れたかのように、恋人の胸の中に倒れ込む。
その身を何度か痙攣させると、やがてトヤーはゾリグの腕の中で完全に気を失ってしまう。
時折、口から甘やかな声を漏らしながら、彼女は背中の曲線を上下させて穏やかな寝息を立てはじめる。
鼻をつく、強烈な男女の匂いと両耳に残響する少女の感極まった掠れた声が、オーケの意思に反して彼の一部分を奮い立たせていた。
トヤーのことは視界に入れないようにしても、まるで効果はない。
だが、ここで退いてしまってはただの覗き魔だった。
「人がドッギングしてる場合じゃねぇぞ、フネがドッギングする時間が迫ってんだよ!」
我ながら、うまいこと言ったな。とオーケは自画自賛する。
身を硬直させて、なおも彼女の中に自身を収めていたゾリグを怒鳴りつけた。
「トヤーちゃんはなぁ、お前が大好きなんだよ。」
鋼の指を突き付けて、まくしたてる。
何を言うのか決めてからここにきたはずなのに、用意したセリフをオーケは全部忘れてしまっていた。
こうなったからには全てはアドリブと勢いで勝負をするしかない。
「男ならはっきり決めてやれよぉ。大人だろぅ?」
説得力皆無の精神論だったが、オーケにはもはやそれしかできることがなかった。
トヤーを除けて、ゾリグが起き上がる。
「俺だって、トヤーとは長く一緒に居たい。と思ってる。」
ゆらりと動く男の姿は幽鬼のようだ。
「そもそも、俺が半年後に生きてるのかわからねぇんだよ。」
ぼそっと、呟きのように漏らされた声にオーケはハッと気が付く。
当たり前のように帰還するので忘れているが、彼は部隊の中で最も未帰還になりやすい立場だ。
ゾリグは偵察機のパイロットだけを務めているわけではない。
現に、彼はクリエフチでも何度か未帰還になりかけている。
彼らの関係はいつでも突然、終わりを告げる可能性があった。
「そんな俺が、もっと長く生きるために博打を打ってほしいなんて、身勝手なことをトヤーに言えるか?」
そう自嘲しながら、ゾリグはパイロットスーツに身を包み始めている。
「それでもトヤーちゃんが生きてれば、帰らなきゃって気になるだろ?」
整備の立場としても、機体の未帰還を前提にした話には同意できない。
そういう話ならばオーケも負けるわけにはいかなかった。
諦めが悪い方が生還の可能性は上がる。
「そういう考え方もあるな。それでも、地球から帰ってこれなかった仲間がたくさんいるんだよ。」
数十万人とな。と付け加えてゾリグが鼻で笑う。
ほとんど同時にガチャンという音が船全体に響いて、足元が揺れた。
――時間切れ?
振動の正体は、降下船が他の船にドッギングして、固定具でロックされる揺れに違いない。
艦内のスピーカーから、艦橋にいるはずのオスキャルの声が響いた。
『本船は遅刻ギリだったが、無事にジャンプシップとのドッギングを完了した。跳躍は3分後。総員ジャンプに備えろ。』
想定していた時間よりも早い跳躍のスケジュールに、オーケは腕に巻いた時計を確認しようとする。
「ジャンプシップと俺たちで時計がズレてるなんてことは、別に珍しくもねぇだろ。」
オーケの時計はしっかりと標準時を指していた。
もちろん跳躍のたびに、航宙船側もズレた時計を標準時に戻す作業をしている。
それでも、1時間程度の予定のズレなどはザラにあった。
ゾリグの言葉は事実であり、そもそもこの船の航行は予定よりも遅延している。
ドッギングを航宙船の跳躍に間に合わせられたのは、艦長の運とも言えた。
「心配すんな、ツォンシャンには必ず行く。ジャンプの回数が増えるだけだろ、もう金の話なんか知るかよ。」
どこか諦めたような口調のゾリグに、オーケは彼を振り返る。
「減棒6ヶ月、独房3日間は固いな。礼は言うぜ。お陰で腹が決まった。」