Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
Sargasso System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
25 December 3151
「結局、あの坊主は間に合わなかったか。」
大きなため息の後、オスキャルは落胆した声を出した。
隣の席に黒衣の美女を侍らせているというのに、つまらなそうな表情を隠すこともしない。
「いいえ、跳躍する前にゾリグはちゃんと決断を致しました。」
「船が跳躍する前に艦橋までやって来て、航路の変更を提言できて、ようやく及第点だ。」
判断が遅すぎる。とぶつぶつと文句を垂れ流した。
ヴェールから覗く笑みと差し出された手のひらをには目もくれず、黙ってその上に年代物の金貨を載せる。
どこでそれを手に入れたのか、どのくらいの価値があったのか。オスキャルはまるで思い出せなかった。だが、値打ちものなのは間違いがない。
手放すのは惜しかったが、負けは負け。それを素直に認められないような齢ではない。
手にした硬貨の重量を確かめるように手の平を上下させると、アンネは身重とは思えない身軽さでローブを翻す。
そして、いつものようにフッと虚空に消えた。
アンネが稀に見せる子供のような表情が、老艦長に彼女の年齢を思い出させる。
あの娘は、オスキャルやナランどころでなく、ツェレンやゾリグよりも遥かに年若いのだ。
それで、あの佇まいと度胸を備えているというのは彼女の立場故だろうか?
人は年齢だけじゃ測れねぇな。と改めて思い知る。
彼女と入れ違うように、今回の賭けの対象が艦橋に踏み込んできた。
「遅かったじゃねぇか。」
彼の苦慮を、星詠みの若い娘との遊戯のネタに使ったことは秘密にする。
そんなことをしたのが、自身の若い恋人の耳に入れば、間違いなく怒られもするし、嫉妬もされるだろう。
老いらくの恋は、オスキャルなりの楽しみだった。
「今はサンタナの辺りだったか?急な話だが、次の跳躍先を変更したい。アリィナに行く前にツォンシャンの天底に立ち寄りたい。」
「航宙船の航路はそう簡単に変わんねぇよ。そっちに行く航宙船の当てはあんのかよ?」
若いパイロットの要請にオスキャルは当然の疑問を返す。
質問すること自体が無駄なことであることは当然知っている。
超高速通信が生きている時代であったとしても、ジャンプ経路の変更は大ごとだ。
契約したジャンプシップを途中で乗り換えて航路を変更するというのは更に難しい。
もしも途中で航路を変えたくなったのなら、数日かけて星系の首都星に降下船を降ろして、そこで再契約するという過程を踏むのが民間の作法となる。
自前の航宙船を持っているのでもなければ、航路変更というのはとても手間のかかるロスの多い行いなのだ。
「そこをなんとかする手はないだろうか?」
ノープランとは恐れ入る。
ただ、シタからの告知が彼に伝えられたのは2日前。
自分たちの状況を知った時には既に手遅れだった。
ゾリグのただの1パイロットという立場を考えれば、この相談を艦橋にしようという決意をするには相当な勇気が必要だったはずだ。
──まぁ、許してやるか。
これ以上、若者をいじめるのも趣味ではない。
そろそろタネ明かしの時間でもいいだろう。
「今はサルガッソー星系の天底にいる。次の跳躍は148時間後だとよ。」
オスキャルは艦長席の操作盤を操作して、数多の艦橋のモニターの一つに星系図を表示する。
ゾリグはモニターを見上げて首を傾げた。
彼の知る航海計画とは経路が違うのだからその反応は当然だろう。
「女医の姐さんに感謝しろよ。クリエフチを発つ前に航路のことは俺たちで全部手配済みだ。」
シタが最初に艦橋にやってきた時に、ひょっとしたらその前から既に事は始まっていた。
当事者2人の意思は関係なく今回の件に関わる全ての決断は終わっている。
まだまだゾリグは若造だ。
そのままでは困るが、どうやら勝手に育つ側ではなさそうなところが悩ましい。
「年が明ける頃には俺たちはツォンシャンの天底だ。」
そう、ゾリグに伝えてしまうと、もう彼への用事はなくなってしまう。
用事がなくなると同時に個人的な興味もほとんどなくなる。
辛辣かもしれないが、彼のお陰でとんでもない原石が見つけた。
──余生を考える会議か。
今回の件で、最年少の彼女が動かした人員の数を指折り数える。
さっちーが泣いてるんだから手伝ってよ。そう言って、単身仮眠室に乗り込んできた彼女を思い出してクククッと笑う。
次回は代理のナランを送るのではなく、自ら参加しても良いかもしれない。
パッドに一枚の画像と共に、短いメッセージが届く。
さっと目を通したオスキャルは、今度こそ大声で笑った。
さっそくそのメッセージに快諾の返事を送る。
すぐにでも、ナランに指揮を変わってもらわなければならなかった。