Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.20_01
Union class Dropship , Bridge
Sargasso System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
30 December 3151
あり得ないという言葉ほど信用ならんものはない。
「えええぇ?喧嘩をなすったのですか?」
だが、オスキャルはナランが目を見開いて驚く顔など、天地がひっくり返っても目にすることはないと思っていた。
だが、これが見れたからと言って、サチコと喧嘩をした価値があったと喜べる気分でもない。
老艦長は艦長席に座り直すと一つ大きなため息をつく。
「通信でよ、相手がサチコのことを俺の孫だと勘違いしそうになったんだよ。」
宇宙空間で遭遇した宇宙船同士が、同じ方向に向かうような偶然は滅多にない。
だが、同じ航宙船にドッギングした降下船同士が、お互いの暇つぶしに挨拶をし合うというのは、稀にあることだ。
大抵、世間話とお互いの航海の無事を祈ったり、お互いに何の得もない挨拶のような会話で通信は終わる。
それでも、この何もない宇宙では、それは希少な外部との交流だ。
その日、艦長席でサチコを膝の上に載せて、2人きりの会話をしていたところで、いつもの挨拶の通信が入る。
「相手がよ、サチコに目をやった瞬間に、嫌な予感がしたんだよ。」
だからこそ、自分の経験なりに、予見された危機を回避しようとした。
オスキャルは、サチコとの関係に興味をもった相手の言葉を途中で遮って、彼女を紹介してしまう。
「それで、喧嘩になったんですか?」
訝しげな顔をして、ナランが問うた。
彼には、中心領域の女性の心の機微を理解するセンサーは積んでいない。
そもそも、オスキャルがいったい何の危機を察知したのか。
それすらも、ナランにとっては難題だった。
「いや、『家内』のサチコだって紹介したら、通信が終わった後に『私たちはまだ、祝言までは致しておりません』って怒りだしちまった。」
それ以来、彼女は彼と口をきいてくれない。
喜ばれる。とは、もちろん思っていなかった。
だがまさか逆に、怒られる側になるとは。
そこまで彼女の逆鱗に触れてしまった理由は、オスキャルにすら理解できない。
彼女の友人達も、この件については首を傾げるばかりで埒があかない。
だから、彼は困り果てていた。
氏族の人間のほとんどが、結婚という概念をそもそも持ち合わせていない。
オスキャルの出身氏族、GhostBear氏族は氏族の中では唯一、『家族』の概念を持っている。
それでも、サチコの沸点については見当がつかない。
オスキャルがナランに求めたのは、答えを知るような人物の心当たりだった。
「ご本人にお聞きになるのが一番かと思います。」
「だから、口きいて貰えねぇんだよ。」
やはり、ナランはナランだった。と老艦長は肩を落とす。
小さな若いお姫様は、すっかりと拗ねてしまっている。
オスキャルは、どこかの誰かのような、無理矢理にでも身体でわからせる。という手をサチコにだけは使いたくない。
しかし、彼女の怒りが冷めるまで、しばらく待つ。という手は、今回ばかりは悪手だとオスキャルは直感していた。
彼のこういう時の勘はよく当たる。
そうで無くとも、オスキャルはサチコの悲しみに満ちた泣き顔が好きではなかった。