Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
Zhongshan System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
1 January 3152
サチコは、幼い頃から淑女としての教育を受けてきた。
彼女の生家は、政争に巻き込まれた後に取り潰されて没落している。
だが、それまでに施された教えは全て彼女の中に残っていた。
遠い異郷の地にあっても、それは身に刻まれた教えに逆らう理由にはならない。
彼女が怒り、大泣きしても、オスキャルはサチコの態度に怒りを返さなかった。
それどころか、彼は艦内の色々な人に、ドラコ領の家族文化を知らないかと訊ねて回っているとサチコは耳にしている。
邦が違えば、文化や考え方が違うのは当然。
それを忘れて、オスクを困らせた自分の愚かさに、多忙な伴侶に大きな負担をかけてしまったことに、サチコは自ら気がついた。
今年、サチコは齢19を迎えている。
半世紀近く歳が離れているとは言え、彼女の行いは不適格だった。
――オスクが次の休憩を迎えた時に、己の不徳を詫びよう。
そう決めて、艦橋の裏の会議室でサチコは彼が出てくるのを待つ。
跳躍が終わった後に、すぐに湯を沸かす。
薄い湯気を立ち上らせた湯を僅かに注いで、茶器を温め始める。
しかし、どれだけ耳を澄ませても、彼が彼女の元に現れる様子は無い。
徐々に不安ばかりが募っていく。
――実は彼は怒っているのやも知れない。
甘えてばかりいて、気が付かなかっただけで、知らずに彼の逆鱗に触れていたのかもと考えると、サチコは身が震えた。
彼に嫌われることを、本能が恐怖している。
サチコを長いこと守ってきた理知と静寂は、この場に留まっていたのでは何の役にも立たない。
オスキャルと顔を合わせても、何を言えば良いのかわからない。
そのままに、こっそりと足を忍ばせた。
名案を授かるには、艦橋に繋がる扉の前まではあまりに近い。
あまり背丈のないサチコの脚ですら、わすかに十数歩で辿り着いてしまう。
――少し覗くだけ。
そう決めて、艦橋に繋がる扉を僅かに開ける。
その瞬間に、人の子一人居ない艦橋が彼女の双眸に映った。
――そんな誰か、嘘だと言って。
いかに航宙船に固定されているからとは言え、降下船の中枢が無人などあり得ない。
老いた艦長しか座らない玉座の上には、彼の代わりに乾いた空き瓶が立てられていた。
彼女の脳の中は真っ白になっていて、眼前の奇妙な光景に適正な評価を下せない。
――何か恐ろしいことが起きている。
そんな予感ばかりがして、サチコはその場に座り込んだ。