Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Odyssey-Class , Upper Hull
Zhongshan System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
1 January 3152
残りの酸素は15分。
メーターの残量を確認していると目の前のドロップシャトルのエアロックが内側から開いた。
「遅いわよ。」
真空中では文句を言っても相手には通じない。
放電が収まってきたとはいえ、通信やセンサーが利くほどではなかった。
ナランが放って寄こしたケーブルを握って、飛び出したプラグをジャックに繋ぐとようやく通信機が意味を成すようになる。
大型の船外活動服に身を包んだアリマと違って、軽装のパイロットスーツに酸素タンクを背負っただけの2人の装備は帰路を往くには少し頼りない。
アリマの推進器を使うのでなければそもそも、移動することすら困難だろう。
人目を憚らずに甘えた声を出すのはもうしばらくお預けだ。
彼の姿をみただけで、腹の下がひくつく。
何ヶ月も会っていないはずなのに、不思議と心の方は落ち着いている。
「待たせたな。」
「遅いわよ。」
久しぶりに短いやり取りを交わすだけで子宮が喜びで震えた。
本来ならば、彼は声すら発さないはず。
数ヶ月の間、彼はほとんどの人間の目から姿を隠して潜伏を続けている。
それは終わったわけではなく、今も続いているはずだ。
本心ではもっと自分を特別扱いして欲しかった。
でも、そうでなかった時間があればこそ、今の喜びがあるのだと思うとそれは些細なことに思える。
天にも昇る気持ちで、彼の手を引いてジャンプシップの表面を伝って飛ぶ。
降下船への帰り道、視界の隅で光る稲光の存在は気にならない。
ジャンプシップに気づかれないように、足元のセンサーが息を吹き返す前に戻らねばならなかった。
この稲光が収まった時が魔法の解ける時間。
そう考えると今までに経験した作戦の中で、この作戦が一番ロマンチックな作戦だった。
降下船に辿りつくと、エアロックが中から開いて伸びてきた手に体を引かれる。
「空気読みなさいよ、艦長」
『ここらは真空だからよ、ちっとも読めねぇな。』
この狸爺とのやりとりも久しぶりだ。
「静かにしていた間の分のフラストレーション溜まってるんだよね。あれ、吹っとばしちゃダメかな。」
『ここじゃあ、ダメだな。切り離してツォンシャンに向けて発進させられるならいいんじゃねぇか?』
「イヤよ、そんな中途半端なの。」
お互いにどこまで本気なのかわからない。こういう火遊びのような軽口を交わせないほど憔悴したのは、やっぱりあの男のせいだ。
──責任取ってもらわなきゃね。
エアロックが閉鎖されて、加圧が始まる。
赤いランプが通常色に変わるのを待たずにアリマは重い装備を床に落とし始めた。