Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union Class Dropship,Sacred Realm
Zhongshan System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
1 January 3152
「ナランよ、オメェ毎日ここで立ってんのか?」
「はい、艦橋にいない時はここの守衛をやっております。」
艦橋でも頑なに座ろうとしない男が、非番の時は立ったまま守衛をやってるときた。
表情を露わにしない彼の顔は、疲れを見せることがない。
その体力にも感心するが、何よりも彼の精神力に舌を巻く。
彼の背後から聞こえるような音を、毎日のように耳にしながら、それでも彼はそこに静かに立っているのだろう。
「ああっ...、ひぃっ...、...いっ、...ううんっ...。」
椅子に座る彫像のような男の股の間で、全ての着衣を脱ぎ去ったアリマが身体を揺らしている。
他の男の目を一切憚らずに、背を反らして声を張り上げていた。
彼女の興奮を煽るように、プリヤンカがアリマの胸を弄って、先端を舌を吸っている。
肩と胸だけを肌けた褐色の眼鏡娘は、しゃがんだ姿勢のせいで、嫌でも腹の膨らみが目立つ。
黒い衣を被ったアンネは、男の背後に立ち、彼の肌に丹念に薬液を塗り込んでいる。
その男の姿は、側から見れば3人の女性に囲まれて、それぞれから奉仕を受けているように見えた。
「サチコさんに、刺されてしまいますよ。」
隣で繰り広げられる光景に気を取られていると、痛いところをツェレンに突かれる。
せっかく彼女の時間を貰ったのに、肝心の聞き手が上の空では意味がない。
「すまんな、ここに来るのは...初めてでな。」
ポリポリと頭を掻いて、言い訳をすると、彼女にはふふふっ、と揶揄うように笑われてしまう。
オスキャルは、ここが自分の船の中であるのが信じられなかった。
3人の妊婦と1人の手負いの獣が隠れ住むには手狭なはずの船室。
光の悪戯なのか、色彩の魔術なのか、老人の目にはこの暗い部屋が無限に拡がっているように見える。
「つまり、結婚の儀式ってぇのは、俺たちで言うところの所有の審判なわけか。」
「そうよ、だから結婚の儀では艦長もサチコさんの所有をかけて争うべきよ。」
彼女はサリーナという男性と結婚するために、パイロットである彼と空で戦い、彼の身の所有を争った。
そして実弾でサリーナに捩じ伏せられた彼女は、その後は彼に所有されたのだという。
どちらが勝っても、2人が結ばれるという結果に変わりはない。
そんな激しい愛の示し方を経ればこそ、誓いは意味のあるものになる。
それがサチコの望む結婚式かどうかは、オスキャルには分からない。
だが、力の所在が全てを定める氏族の倫理としては、それはとても分かりやすい論理だった。
「俺は誰とサチコの所有を争えばいいんだ、そりゃ?」
「この場合はオーケでしょうね。」
この船の事情は複雑だ。船はオスキャルのものだが、整備班は外部から雇った傭兵だ。
サチコはオーケ率いる整備専門の傭兵の集団の構成員であって、オスキャルの制御の下にはいない。
ツェレンは、オスキャルがオーケからサチコの所有を奪うことこそ、結婚の儀に相応しいと言っているのだ。
彼女の言っていることは、確かに正しい。
「艦長、航宙船から呼び出しがかかっているようです。しかし、誰かが艦橋から応対しています。」
オスキャルの会話の切れ目を狙って、ナランが声をかける。
「誰が艦橋に入り込んでるんだ?」
閉鎖された艦橋に続く扉は、許可された人間しか開けられない。
咄嗟に腕に装着した通信機から通信中の回線に割り込もうとした。艦長席が乱入に応答して、黒髪の少女の声が流れる。
『オスク、何かありましたか?』
「何がって、お前...」
先日の喧嘩の記憶のせいで、オスキャルはサチコの冷たい声に少し怯んだ。
オデッセイ級との通信はまだ繋がっている。口篭る場面ではない。
だが、状況を聞こうとしたところで間の悪い邪魔が入った。
「だめっ、だめっ...、ああっ...!」
オスキャルの背後で、一際大きな声を上げてアリマが果てる。彼女の腹の底から湧き出たような声が、明かりのない聖域内に響く。
その後の嫌な沈黙はその声が通信機の向こうにまで届いた証だった。
『オスク、後で話しましょう。』
通信機の向こうのサチコの声が低く聞こえる。腕の通信機にはホロが出ないので、彼女の表情は見えない。
『......あー、うん。お宅は関係なさそうだな。』
更に悪いことに、じゃあな!というカルディネの声と共に、何かから逃げるようにオデッセイ級との交信は途切れてしまう。
主通信が切れてしまえば、そこに相乗りしていたオスキャルと艦橋の通信も切断される。
「艦長、聖域は通信禁止よ。」
艦橋との通信を繋ぎ直そうと、腕の装置に指を伸ばすオスキャルをツェレンの腕が止めた。
反対側の手を膨らんだ腹に載せて、上目遣いで見つめられると、彼女に言い返すこともその腕を振り払うこともできない。
「直接、お話しなさるべきです。」
立っている場所も、姿勢すらも変えずに、ナランが彼女に同調する。
しぶしぶと腕を降ろしたオスキャルは、深いため息をついた。
じっと手の平を眺めた後に、ナランに声をかける。
「ナラン、おめぇが艦橋へ戻るのは2時間後だったな?」
「おっしゃる通りです。」
そんな予定はどこにもない。
だが、大男は艦長の言葉をはっきりと肯定する。
ナランは女心とは無縁だったが、決して勘の悪い男でない。
「艦長がお戻りになられた後、私が艦橋の隔壁扉を遠隔操作で閉めておきます。」
むしろ、鋭すぎるくらいの感性を持って、この船の副長役をこなしていた。
この部屋の守護者の背後では、アリマの短い吐息のような声が、再び高まりを取り戻している。
まるで2人以外には誰もそこにいないかのように、舌を突き出して背を仰け反らして、彼女は情事に耽っていた。
喧嘩もなく、主と従を確かめ合えば、僅かな時間で不仲や空白が解消してしまう。
彼らのそんな間柄は、とてもうまくいっている。
受け取り切れないほどの精を胎内から溢れさせれば、アリマの不機嫌は一瞬にして溶け去ってしまう。
今日ばかりは、その単純さをオスキャルは羨んだ。だが同時に年齢以外では、サチコとはできる限り、対等な男女でありたいとも思っている。
アリマはもはや、彼に異を唱えない。盲目的に彼に仕え、彼に従うことに限っては、理性と選択肢を投げ捨てている。
オスキャルは、サチコには彼女と同じ姿を取って欲しくなかった。
「若いのに影響されているわけじゃねぇぞ。」
そう、自分に言い聞かせるように言葉を漏らす。
ナランとツェレンにそう宣言しておかなければ、オスキャルはサチコと対面した時に力で組み伏せてしまうかもしれなかった。
2人に見送られて、老艦長は足早に聖域を発つ。
いつであろうとも、オスキャルの望みとは裏腹に、サチコは彼の腕力に抗おうとしないことを知っていた。
彼女の苦しげな表情と、小さな呻き声、すっと力を抜いて全てを彼の腕に委ねようとする小さな躰の感触が脳裏を駆け巡る。
オスキャルの体内で沸き上がっていた昂りは、困ったことに容易には鎮まりそうになかった。