Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union Class Dropship
Zhongshan System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
6 January 3152
「邪魔すんぜ。」
カルディネは面倒そうな表情を隠すことなく、降下船の通路に降り立った。
「お前さんはいつも、間が悪いな。」
「前回は俺のせいじゃねーだろう。」
通信機越しならば、散々顔を合わせているが、こうして実際に顔を合わせる機会はほぼ無い。
ただそれは、問題が無ければの話だ。
――爺がここにいるということは、今の艦長席にはあの娘がいるのか。
そんなことに考えを巡らせながら、カルディネは出迎えのオスキャルに尋ねる。
「今日はどう間が悪いんだよ?」
「おめでただよ。クルーがの双子を産んだ。」
いつも通り、老人の答えは彼の想像を越えていた。
眉をひそめて後ろを振り返ると、ついてきた2人の部下も困惑した表情を浮かべている。
だが、その言葉は、彼のペースを乱すための冗談にも思えなかった。
姿勢を戻して、カルディネはオスキャルに苦し紛れの軽口を返す。
「爺の子かよ。」
当然の疑問を老艦長がちげぇよ、と笑い飛ばした。
「だが、運気付けだ。見ていけ。」
海を行く航海の時代から、船乗りの縁起を担ぐ風習は変わっていない。
古き良き時代を忘れた連中も多い中で、オスキャルの誘いは古風な計らいだった。
直近の運の巡りの悪さを考えれば、カルディネが誘いに乗らない理由はない。
数日前の通信の内容を、彼は思い起こす。
カルディネが逃げるようにして通信を切った後、オスキャルは艦長席で嫁さんともヤッたらしい。
袖口で口を隠すようなあの若女将の指の動きと、「ここでたっぷりといただきました。」という言葉からは、そうとしか解釈のしようがなかった。
それは彼が勝手に想像した経緯だったが、無重力下で出産をすることに比べれば遥かに現実味がある。
臨検という本来の用事を忘れて、絶倫の老艦長の後に続く。
まだ赤い身体中が皺だらけの双子を前にして、カルディネはその姿に驚きを隠せない。
――目がまだしっかりと見えていないのか。
真っ白な部屋の真っ白な布の上で、半開きの口と宙を掻く小さな手を見た。それだけで、船乗り達にはこの船に脚を踏み込んだ意味がある。
同じ部屋にいた赤子の母親は、黒い艶やかな髪の毛に碧い目が印象的な女性だった。
白衣を被って、我が子を抱く姿は、どこか神秘的な雰囲気をカルディネにですら感じさせる。
あまりに戦闘艦に相応しく無い光景を前にして、自分が本当に邪魔者であることも感じた。
「なんか、色々気を遣わせたみたいで悪ぃな。」
「なぁに、船乗り同士はこうでなくちゃな。」
何十歳も歳上の男の貫禄があればこその、あの妻なのだろう。
実際にこうも生命力の差の証を見せつけられては、参ったと言うしかない。
「例の船の件だが、あっちの船主はお前らを疑ってるみたいでよ。」
とにかく航宙船には防御能力がない。
ジャンプポイントからそう遠くない距離から軍船で威圧されては、乗船調査を断れなかったのだ。
「SeaFoxに何を睨まれてるのかは知らねぇけどよ。俺からもう一度お前らは今回の件には関係ねぇって言っておく。」
「手間をかけるな。ご配慮に感謝する。」
老艦長はカルディネの方を振り向きもせずに、感謝の言葉だけを口にする。
もう一度、カルディネは透明板越しの母子を振り返った。
その姿を見て、彼は部下に武器を持たせなかったのは正解だったと確信する。
すっかり肩の力が抜けてしまった様子の2人に目配せをすると、カルディネは彼らに引き上げの指示をした。