Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bay3
Zhongshan System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
6 January 3152
何本ものパイプをタコのように床に這わせたトレーラー。太いケーブルを束ねた管のどれがどこに繋がっているのか、シタには見当が付かない。
機械のことは専門では無いし、そもそも指揮通信車などというものにご縁があるとは、彼女は想像もしていなかった。
暗闇の中で薄明かりに照らされていると、つい医者の役目を忘れそうになるが、今日ここに居るのは逞ましい野獣に身を捧げるためではない。
「データベース立ち上がりました。いつでも検索始められます。」
「ようし、じゃあ僕らのクランケのことを調べてみよう。」
オチルの呼びかけに応えた男こそが、シタが呼んだ専門家だった。
本来の名、アルタンエルデネとは誰も呼ばない。代わりのDr.マリオという呼び名はDr.マリオネットを略したものだ。
警察病院に勤める医者としては、あまりに仰々しい名前だが、そこに籍を置く前からそう呼ばれていると知れば、その先を尋ねるのは御法度だと分かる。
腕が良いだけではなく、頭の回り方も他の医者とは違った。
シタが書いたカルテを読んだだけで、指揮通信車のデータベースから氏族の過去のパイロットの情報を探そう。と彼は提案する。
EIインプラントは氏族の軍用の技術で、手術に必要な知識を得ることがそもそも難しかった。
シタは、トヤーの手術歴の情報が、まさか自分の足元にあるとは思いもしない。
だが、マリオはすぐにその可能性を閃いた。
「5-8年前、まだ訓練の段階でEIの手術をうけている女の子。そうだね、ロシャークの遺伝子で絞り込んで。」
彼は今やオペレーターの椅子に手を載せて、細かな検索の条件までを指示している。
「7年前に14人の訓練生に手術を行った訓練所があります。ただ、5人が手術で、7人が手術後2年以内に死んでます。残った女性2人も7人が死んだ直後に破棄されていますが、どう破棄したのかは記録上はわかりません。」
胸糞の悪いデータを、オチルが読み上げた。
情報を聞いただけで、氏族の実験に使われた訓練生達が、人体実験の失敗で命を落としたというシナリオが頭に思い浮かぶ。
「シタ君は随分とシビアな世界で生きてきたんだな。」
シタの想像を聞いたマリオは率直に感想を述べた。
「だが、推測というのは事実に基づいて行われるべきだ。情報は多ければ多いほど、真実に近づく。」
忠告なのか説教なのか、まるで格言のような言葉を男は口にする。
彼はオチルの席の横から指を割り込ませて、自らの手でデータベースを操作しはじめた。
「出来事を読んでくれたまえ。」
「えーと?5年前の訓練所襲撃事件ですか?警備と訓練生が反撃したけど、結構多くの資源が奪われたやつですね。襲撃者は不明だけど...あれ?ここ、EIの手術してたさっきの施設ですね。」
「そうなのだよ。」
モニターに表示された過去の事件を、オチルは彼に指示されるままに読み上げて、首を傾げる。
ポンと手を叩くと、マリオは改めてシタに目を向けた。
人体実験と訓練施設の襲撃事件、シタには2つの情報が繋がるようには思えない。
「どういうことですか?」
「可能性がいくつかに絞られる。」
顔を顰めたシタに、マリオは指を2本立てて見せる。
「トヤー君の5年前に起こった出来事だ。トヤー君は襲撃者に抵抗して戦った訓練生の1人か、もしくは襲撃者に奪われた資源の1人かのどっちかだ。」
トヤーの所属していた海賊が襲撃者ならば、彼女は資源として奪われた訓練生だということだろうか?トヤーが抵抗して戦ったのならば、生き残って攫われたという筋書きもあり得る。
シタはもう一度、モニターに映し出されていた情報と、自分がカルテに走り書いた情報を見比べた。
「あと、キミの調べたカルテと組み合わせるともう一つわかることがある。」
マリオは、人差し指を振り回しながら、その場を歩き回っている。
彼女が廃棄された日付には、訓練所が襲撃された後の日付が書かれていた。
「トヤー君は5年前以前の記憶が無いんだってね?」
シタはその問いかけに頷く。
トヤーの覚えている範囲では、彼女はずっと海賊に居たことになっている。
だが、その覚えている範囲は僅かに4〜5年間程度で、それ以前の彼女のことは誰にもわからない。
「じゃあ、確定だ。彼女に記憶が無い理由が僕にはわかる。」
得意気なマリオの次の言葉をシタは静かに待った。
もう、彼の口から真っ当な文句が出てくるはずがない。
「この時だろうね、彼女はインプラントの反作用で、既に一度発狂している。仲間の7人が死んだのも、戦死でなければきっと同じ理由だ。」