Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Medical Sect
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
ストレッチャーに載せられたトヤーの姿に、いよいよこの時間が来たことを、イヤでも自覚させられる。
即座にストレッチャーの周囲を囲んだのは、黄色い整備服の娘達で、彼ではなかった。
白衣の医者2人は、ゾリグの様子を気にもせずに、彼女達と手術の話を始めてしまう。
「執刀医はこの僕、マリオがやる。シタ君は麻酔と僕のサポートをしてもらう。」
「トヤーちゃんのことを、どうかよろしくお願いします。」
サチコがマリオに深々と頭を下げた。
「あれぇ?てっきりトヤーはもうハゲにされてるかと思ったのに、まだ髪の毛生えてるんだな。」
「ふふん、神経インプラントだからって頭だとは限らないんだよ。今日、切るのは背中なんだって。」
シャロンのトヤーへのからかいも、今日はどこか精彩を欠く。いつもなら、なにおぅとトヤーの胸に伸びるはずの彼女の両手は、今日は固く握りしめられたままだ。
皆、どこか今この時が彼女に会える最後かもしれない。と怯えている。
それは、ゾリグにしたって変わらない。
彼にとって、不運だったことがいくつもある。
そのうちの一つが、彼の知らないうちに、トヤーが艦内で人気者になっていたことだ。
ボルド達とは格闘訓練を、整備班とは共にメックの整備を。方々に混じり込む彼女と、声を交わしたことのない乗組員はいない。
お陰でこの1週間、ゾリグとトヤーはほとんど2人の時間を取れないままに、この日を迎えることになった。
このまま、彼女を行かせてしまうのは良くない。
そうは思っていても、都合の良い言葉が出てこなかった。
サチコやペトロワが使う言葉は、まるで今生の別れのようで、ゾリグには受け入れ難い。
地球に発つ時に、サリーナがツェレンにかけた言葉を思い返そうとする。
だが、その言葉が彼の脳裏に浮かぶ前に、刻限が来てしまう。
「トヤーちゃん、そろそろ始めましょう。」
「ほんじゃ、またね。」
シタに促されたトヤーが、ストレッチャーの上から皆に手を振った。
「おう、ベッドを整えて待ってるわ。」
ようやく思い出せた言葉が、ゾリグの口をついて出る。
それを聞いたトヤーが、彼に嬉しそうな笑みを返す。
一度くらい彼女を抱きしめておきたかったが、お互いの距離は離れ過ぎていた。
そのままストレッチャーは彼女を載せて、手術部屋に吸い込まれていく。
──ベッドの支度をしておいてよ。きっとクタクタになって帰ってくるからさ。
あの男はツェレンにそう告げて、ツォンシャンを発った。晩には帰ってくるような口調で。
結局帰ってこなかった男の言葉を参考にするのは、縁起が悪いのかもしれない。そう思っても、ゾリグは他に手本を知らなかった。
「ゾリグ様、ご不安は無いのですか?」
「思ってたよりも、ハッキリと仰られるのですね。」
「正直、玉無しだなと思ってたけど、ちょっと見直したわ。」
サチコ、ペトロワ、シャロンが揃って顔を覗き込んで来るのに、ゾリグは少したじろぐ。
「帰ってきたらヤるぞ。って、なかなかこういう時に言わないぜ。」
シャロンはゾリグの胸に、肘をグリグリと押し付ける。
ペトロワが頬に手を添えて、目を伏せた。
「トヤーさんは必ず帰ってくるという信頼を感じました。」
自分が口にした言葉を振り返って、彼女達の勘違いの理由に気がつく。
訂正するのは不自然だったし、否定するのも今では無い。
「ゾリグ様?術後すぐは致せませんよ、傷が開いてしまいます。」
「わかってる。最初は添い寝くらいだろ。」
「数日は病室です。」
首を振るサチコの言葉に、ゾリグは自分がトヤーの術後の予定を、一切知らないことに気がつく。
「そういや、手術の後ってどうなるんだ?」
同じ疑問を口にしたシャロンの視線から逃げるようにゾリグはサチコに表情を向ける。
ゾリグ様、貴方様って人は。と表情が語るが、彼女はそれを口にしない。
「シャロン、シタ先生の話を聞いていなかったのね。」
サチコはゾリグの方は向かずに、シャロンに向けて呆れた声を出す。
ゾリグは心の中で彼女に感謝をしながら、シャロンへの説明を、そのまま共に聞くことにした。