Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Housing Complex
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
03 February 3151
弾薬集積場の居住区は、その名にそぐわない規模だった。
かつて気圏戦闘機二個星隊、メック三個星隊を駐留させていた飛行場はその気になれば簡易宇宙港として機能できるだけの規模と能力があった。
今は、その広さがかえって虚しい。誰もいない廊下の響きだけがやけに大きく聞こえる。
居住区で使われていない多数の空き区画のいくつかが物干し部屋として活用されていた。
基地の近隣はたまに激しい砂嵐に見舞われる。
砂嵐とまでいかなくても黄色い風に洗われている。
洗濯物を屋外で乾燥させるのはバカのやることだった。
洗濯機の立ち並ぶランドリーの近く、かつては遊戯室だった部屋の高いところに何本も紐が通され、室内乾燥部屋になっている。
任務と任務の合間の時間、ドルマ―の相棒ツェレンはだいたいここにいた。
自分の洗濯と隊の若い子の洗濯モノの面倒をみている。
ドルマ―は見てるだけだ。
齢の近い男の下着を洗う心境はドルマ―にはまだ難しい。操縦桿の操作を教えるくらいが彼女の限界だった。
年上の異性に自分の洗濯物を預ける心境を想像してみた。
隊長に預けても、例えばゾリグに預けても、鉄拳制裁が返ってくる想像しかできなかった。
「……ツェレン、疲れてない?」
「疲れてるわよ?」
対艦戦闘仕様の4番機はたまに他の戦闘機のミサイルの照準と誘導を引き受ける。
大量の極太の長距離ミサイルを抱えて出撃する苦労は隊での役割が違うドルマ―には経験のないものだ。
ツェレンが若い隊員の制服を桶に沈める。
洗濯機では落ちなかった染み抜きだろうか。黙々と、穏やかに手を動かしている。
指先は細くしなやかで、関節の動きにすら躾けられたような品がある。
肘から先の筋は引き締まっているのに、肌の質感は驚くほど柔らかそうで、優しい。
年月をかけて夫を支えてきた人の手、そんな印象だった。
脇に流れる髪は艶やかで、結い上げたうなじが時折見え隠れする。
肩幅は思ったよりも狭くて、背中は頼れるのに、やっぱり女の人なんだなと思った。
無駄話で笑いながらも、手は止めない。
戦闘機に乗るときよりも、柔和な表情だったけれど、ずっと真剣だった。
「ねえ、兄さんからは?」
ふと、ツェレンに彼女の夫の話を振ってみた。
本物の兄じゃない。でも姉同然のツェレンの伴侶だから、ドルマ―は彼を兄と呼んでいた。
「ううん。地球侵攻に行ってから、ぱったり」
その言葉に、洗っていた制服の動きが一瞬止まる。ツェレンの顔はいつも通りだ。けれど、目だけが遠くを見ていた。
ドルマ―は言葉を選ぶ。何か、何か言わなくちゃと思うのに、何も浮かばなかった。
「……帰ってきたら、何作ってあげるのさ?」
苦し紛れに晩御飯のメニューを訊いてみる。
「どうせ、戦闘糧食しか食べていないでしょうから、最初は毎日スープかしら。」
ツェレンが少し笑ってくれた。
優しくて、寂しそうで、でもしっかりしてる最近のツェレンの笑顔だった。
それ以上は何も言えなかった。
気がつけば、ドルマ―はツェレンの手元じゃなく、ボタンの開いた胸元ばかり見ていた。
シャツの上からでもわかるその豊かな膨らみに寄りかかれば何もかも許して貰えるような気がした。
我慢できなくなって、邪魔を承知で顔面から飛び込んだ。
ふわっと鼻腔をくすぐるのは、柔らかくて、あたたかくて、変わらない姉の匂いだった。