Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Somewhere
In my mind
Odontoya
8 January 3152
――あたし、どうしたんだっけ?
暗闇の中で目を覚ます。
暗いのもイヤだけど、何よりも1人ぼっちなのが心細くて悲しかった。
――これ、6時間も続くんだっけ?
うつ伏せのまま、麻酔で眠らされたのが最後の記憶。あたりを見回しても起動前のコクピットのように何も見えない。
ふと、閃いたことをやってみた。
「起きて。」
いつものように誰かに呼びかけると世界の色が変わる。視界が明るい星空に満たされて、あたしは星明かりに囲まれる。
コクピットの外でこれをやったのは初めてだったけど、どこと繋がったんだろう?
『ここは貴方の深奥。記憶の彼方。』
聞き覚えのある冷たくて暖かい声が頭の中に響く。
アンネさん。と声をあげようとするが、いつもとは違って自分の声は耳からは聞こえなかった。
「暇なの?」
思いつきだったけれども、心の中で呼びかけるようにすると思った通りに声が出せる。
星空の向こうから、驚きの感情が返ってきた。
『私も1人なの。せっかくだから、2人で一緒に私の子供達の名前を考えましょう?』
「えええぇっ?もう2日くらい経ってるよ!名前まだ決まってないの?」
心の中で入れたツッコミがここではそのまま叫びになる。あまりの声の大きさに自分でびっくりした。
「やりにくいなぁ。」
困惑のボヤきもここではそのまま声になる。
普段は聞くことのない、アンネがクスクスと笑う声で寂しさが吹き飛ぶ。
『ご自分のお名前を言えますか?』
星詠みの唐突な質問に一つの名前があたしの脳裏に浮かび上がった。
――オドントヤー。
「あたし、トヤーじゃなかったんだ。」
『どこかで星が忘れ去られたのね。星の輝き、それが貴方の名。』
「そういえば、みんな星の名前付いてたな〜。サラとか、ソリルとかゲレルとか。」
ふわっとしていた記憶から、懐かしい名前を呼び起こす。もっといた気もするけれど、6人しか名前と顔を思い出せなかった。
『それが貴方の御姉妹のお名前です。』
アンネはその名前が誰なのかを教えてくれる。
『貴方にはいくつかの道があります。一つは生を離れて、かつての御姉妹の元へ行く道。もう一つは今のご自分を捨てて、御姉妹唯一の生き残りとして、かつての自分の続きを歩む道。最後の一つはかつての自分を忘れて、ただの輝きとして今の生を歩む道。』
突然、アンネが示した選択肢にあたしは目を見開く。そして、笑い出す。
星空の輝きが暗く明滅を繰り返し、まるで困惑の表情を浮かべているよう。
「何を言われてるのか、全然わかんないや。」
『えっと、手術で死ぬか、昔の自分の記憶を取り戻して今の自分を忘れるか。あとは昔の自分を忘れて今のまま生きるか。ってことなんだけども...』
アンネが慣れない言葉遣いで予言の内容を精一杯噛み砕いてくれる。アンネまで困惑しているのが面白くて、あたしは更に笑う。
「その選択肢で迷う人いるの?」
『昔の貴方の方がその...技術も知識があるのですが...。』
「やだよ、昔の姉妹はみんなもういないんでしょ?」
あまりにパッと選んでみせたことのにアンネは戸惑いを見せるが、あたしには3番目以外が選ばれる理由が分からなかった。
意思が明確ならば...。と黒衣の女性が姿を現す。
「後のことは医師の技次第。」
言葉を喋る人が見える場所に出てくると頭の中で聞こえていた声は急に聞こえ方が変わる。
何かアンネは難しい考えに囚われているようで、やっぱり困った顔をしていた。
「初めっからそうじゃん。そんなことより、子供の名前を考えようよ。」
今のこの時間はなんだったんだろ。
あたしがもしも何かを迷っていたら、手術が失敗しやすくなったのかな?そんなことを想像する。
一緒に名前を考えていると、いつもは近寄りがたいオーラを纏っている彼女のイメージが少し変わった。
病室で1人、2人の赤ちゃんの世話に追われる1人の若い母親がそこにいる。
「なんでも星任せはダメだよ。一語くらい自分のお願いを込めようよ、なんかあるでしょ?」
あたしがちょっと怒ってそう言うと、今度は彼女が途方に暮れる番だった。