Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bay2
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
暗い闇の中の機械いじりは普段よりも余計に集中力を必要とする。
いつもなら文句を言う話だが、今回ばかりは誰も苦情を口にしない。
海賊上がりの娘っ子の言葉は直感的過ぎて、彼女の要望を理解できる整備士は少なかった。
普通なら嫌われるところだが、それでもトヤーと整備士達が仲良くしていられた理由は今も彼らの手元にある。
オーケは彼の前で手を動かしている整備士の後ろから、彼の声を頼りに機器とメモを交互に照らす。
手書きされた図に青い線で書き込まれた丸い文字。そこに更に書き加えられた赤い注釈が彼ら整備班の聖典だった。
中心領域出身のオーケ達が氏族の技術についていけるのは、トヤーの青文字のお陰でもある。
毎日のように同じ機械を弄っていれば、もう中身は手が覚えていた。
それでも、作業は一人ではやらない。
必ず、後ろで確認する人間とこの聖典がどちらかの手元にあった。
整備士の女子3人組とトヤーが仲がいいのは、彼女たちが「学友」だからでもある。
――この注釈を書いたのは、ペトロワか...。
性格に似合わない、勢いのある男のような筆致から赤字を加えた人の顔を思い浮かべる。
右肩上がりで走り書きのような文字ならサチコ、細い流れるような文字を書くのはシャロン。
軸と文字の大きさがちぐはぐな見た目の文章を書くのが自分だった。
「トヤーちゃんの手術どうなんですかね?」
突然、作業をしている整備士が口を開く。
聖典を目にすれば、嫌でも彼女の顔が思い浮かぶのはオーケも一緒だった。
彼女を囲む勉強会のスタイルはお互いの知らないことは雑談でもするかのように語り合って教え合う。
一方的に話したり、聞いたりしていると彼女はすぐに眠ってしまうのだ。
必然的に、会話が双方向に行われる。
学習の効率はひどく悪かったが、少なくとも彼女の人柄を知らない人間は整備班にはいなかった。
「わからん。今は手元に集中しろぃ。」
ぶっきらぼうに返事を返す。
間違っても、心臓が止まったらしいなどとは言えない。
トヤーの無事は整備班全体の士気に関わる一大事だった。
幸い、整備班で他所からの音を聞いているのはオーケ一人しかいない。
『4番機を対艦兵装に換装できるっすか?』
『7番機の翼下に4本括りつけるってのを船外でやれるか?着艦させている暇はない。』
イヤーセットから艦橋や外のパイロットの要望が立て続けに流れてくる。
これを班員が直接聞こうものなら大混乱だ。
「無茶言わんでくれ、こっちはサチコとシャロンがいないんだ。機体の制御系の更新が間に合わねぇよ。」
通信機の向こうに向けて怒鳴り返す。
技術のある人間がいないわけではないが、得意な人間が足らなければ間に合わせるのは難しい。
電子系を得意としている2人がこの場にどちらもいなかった。
珍しく、艦長席がぐぬぅと呻く。
通信席のアレフの計算が正しいのならば、ドルマーが見つけた船はオスキャルの想定の倍以上の力で加速していることになる。
『相手の船の推力に変わりなし。これは想定の半分くらいの時間で射程に入るかもしれません。』
『相手が減速しなかった場合は互いの射程に入るまでどのくらい時間がある?』
爺の苦悩の理由はとにかく時間だ。
僅かな間を開けて、アレフが短く答える。
『あと、8時間20分ほど...Visigothを迎撃に向かわせるなら、準備時間はあと3時間程度です。』
途中で相手の足を止めないと、航宙船の盾をしながらの艦対艦戦闘になります。
さらっとタイムリミットを口にしたアレフに誰も反論を返せなかった。
――照明が少ないことと、無重力作業の方はどうにかなる。
だが、手術室前の彼女たちを呼び戻しでもしなければ、もう頭数も時間も足らない。
相手の船がどこかで減速する可能性に賭けることもできるが、それはあまりに博打が過ぎる。
ここまで来たら、誰かがその一声を上げねばならない。
オーケは目を瞑って、イヤーセットのマイクのスイッチを入れた。