※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.22_04

Union class Dropship , Bay2

BlueHole System, Nadir JumpPoint

Jade Falcon

8 January 3152

 

『5番機離昇、押し出します。』

 機体の尾部をパワーアームで掴まれて、ゾリグの機体が降下船の外に放り投げられる。

 シャロン式発進法とでも言えば良いのか。無重力下だからこそ、出来る芸当だ。

 

『おっしゃぁ、ゾリグぶちかまして来い!』

「ぶちかますのは俺じゃねぇよ。」

 電子戦機の5番機には、戦闘艦をどうこうする能力はない。

 威勢のいい言葉とポーズで機体を送りだした彼女に、ゾリグは思わず言い返す。

 機体の調整をした本人も、そんなことは百も承知だろう。

 今のは、彼女なりの力付けのつもりだったのかもしれない。

 それに気が付いたゾリグは一瞬、言葉が強かったかと後悔をする。

 だが、言葉を受け取った本人は気にした様子もなく、徐々に距離が離れていく機体に手を振っていた。

 センサー類に異常が無いことを確認しながら、ゾリグはしばらく機体の動きを慣性に任せる。

 スラスターを点火するのは、十分な距離が離れてからだ。

 

 シャロンの両腕に装着されたパワーアームは、両手の指の先から肩までを船外活動服の上から覆っている。

 金属の手と指の部分は、彼女の手があるはずの部分よりも先に付いていた。

 だから、彼女の姿は外見だけを見れば、まるで腕の長い手長猿のように見える。

 直感的に扱えそうな見た目に反して、実際に使いこなせるようになるには、相応の技術と慣れが必要な装備だ。

 だが、シャロンは不格好なそれを、まるで自分の手のように自在に扱う。

 例の一件以来、あのパワーアームは確実に進化を重ねている。

 アームの改修にシャロンとトヤーが口出しをするようになってから、僅かな時間のうちにそれは、指先で細かい作業ができるようにまでなっていた。

 

――余程好きなんだな。

 

 そう評価をしながら、ゾリグはシャロンの一言を思い出す。

「オーケを助けに行く。」

 彼女のその一言をきっかけに、サチコもオスクの苦境は見ていられないと足を揃えた。

 彼女達がそう言わなければ、ゾリグも腰を上げることはなかったかもしれない。

 

 2番格納庫の発進口に目を向ければ、パワーアームを装備したシャロンが8番機の翼部を目掛けて縄を放っていた。

 彼女の背後で、軽装の宇宙服を着たサチコや他の整備士が控えている。

 直接着艦をさせずに、降下船の近くまで寄せた機体を縄の先の円で捕まえることで、静かな着艦を実現しているのだ。

 兵装の交換や点検などは、ほとんどその場で行われ、機体は再び彼女達によって宙に投げ出される。

 機体を格納庫まで収容しない表向きの理由は、時間の問題だ。

 だが、どこかの誰かが格納庫の隔壁扉を破壊したから、という裏の理由もそこにはある。

 

 大事件ではあったが、それを理由にパワーアームの使用が封じられることはない。

 シャロンとオーケの間にあった深い溝を埋めたのは、あの誓いの指輪だった。

 それを使用禁止にすることを、サチコが許すはずがない。

 オーケとシャロン、オスキャルとサチコ。

 不安はあっても、ゾリグは破滅の予感はない恋人達が今はひたすらに羨ましかった。

 HUDに表示された時刻を確認すれば、いつの間にかトヤーの手術が終わるはずの時間は過ぎ去っている。

 それなのに、ゾリグの手元には吉報も凶報もまだ届いていなかった。

 

 励ましや慰めが欲しいわけではない。

 それでも、僅かな迷いの後に通信機のチャネルを合わせる。

 回線を開いても、どんな言葉を口に出せばいいのか、思い浮かばなかった。

 たった1人で、手術室の前にいるペトロワに、ゾリグは精一杯の虚勢を張る。

「心配すんな。シタが出てこねぇってことはまだトヤーは踏ん張ってるってことだろ。」

 延長戦が続いたとしても、ゾリグ達が船に戻る前に結果は出るだろう。 

 その結果がどうであろうと、もう彼が第一報を受け取ることはない。

『ゾリグ様こそ、無事に帰って来てください。』

 なぜ、声をかける先がペトロワだったのか、ゾリグは彼女の返事を聞いてようやく少し理解する。

 誰かがトヤーの近くにいることを、確かめたかっただけかもしれない。

 その他の理由もあるかもしれないが、ゾリグは心の中の靄が少しだけ晴れた気がして息をつく。

「悪ぃな、後を頼む。」 

 逃げ出すように、操縦席の脇のレバーの一つを前に押し出して、機体に力を行き渡らせる。

 シャロン達の姿が小さくなり、やがて球型の降下船も、肉眼で探すのは難しいサイズになった。

 機体の進路を固定して、降下船との信号のやり取りが続いていることを確認する。

 

 シタからの余命宣告以来か、それともドルジが居なくなって以降か。

 ゾリグの調子は狂いっぱなしだ。

 トヤーの一件さえ決着がつけば、この乱れは元の通りに戻るような気がしている。

 もう、まもなくこの問題には決着が付く。

 

――2人とも戻らないかもしれない。

 

 ふと、そんな可能性がゾリグの頭を過ぎる。

 果たしてその結果は、最悪の結果なのだろうか?

 ゾリグはその問いへの答えを、今は持ち合わせていなかった。

 

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