Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Nadir Nearby Space
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
『目標、逆噴射を始めた。』
発見から10時間、ようやく相手が次の動きを見せた。
相手は既にジャンプポイントまでの行程の半分を過ぎて飛んでいる。
これ以上加速を続けるのか?それともどこかで減速を始めるのか?
相手の動き次第でドルマー達の成すべきことは変わった。
『それは逆にめんどくさいな。相手さんはこちらと真っ当に砲撃戦闘をする気があるってことだ。』
レーザー攪乱ガスと照明弾では対応できなくなったな。とオスキャルがボヤく。
ジャンプポイントに接近を続けている2隻の船にドルマーはぴったりと張り付いていた。
オスキャル達からでは見えないものも2番機からならば、小さなラグタイムで見つけることができる。
ただ、彼女の長距離センサーでは艦影までは捉えられない。
漆黒に近い色で船体が塗られているのか、視覚センサーでは相手の姿はほとんど見えなかった。
そういうドルマーが集めきれなかった情報はこれからゾリグが受け取りに行く。
細かな部分までを探るような任務は、この5番機の領分だった。
HUDの上のスイッチをいくつか操作して、モニターに映る情報を追加する。
緑色のパネルの右上にミリ秒単位でカウントダウンを続けるタイマーを表示した。
「あと30分で相手の懐に入る。」
通信機の向こう側に、表示された数字を伝える。
この数字が0になる時が5番機が目標の船団と軌道を交差する時間だ。
目標との距離を示す数字は毎秒数百マイルの距離が縮んでいる。
偵察機を張り付けられた上に、更に追加の機体を差し向けられているのに向こう側に引き上げる様子もない。
正常な判断を相手に求めるのは諦めた方が良さそうだった。
それがどのような状態であるかまではわからないが、相手は無抵抗でない船をわざわざ襲撃するほどに切羽を詰まらせている。
相手が氏族の正規の部隊なら、こんな動きをするはずがなかった。
『海賊だとすると...、光速の1/1000の速度で対艦戦闘をして奴さんには何の利益もねぇわな。』
『戦闘艦なら、もっと速く飛べたんじゃないすかね?』
まだ、相手の正体はわからなくても、通信機の向こうでは皆が次の動きを探っている。
「ビビッてんのさ。ジャンプポイントで充填中にわざわざ哨戒機を4機も同時にバラまいてる船が真っ当なもんかよ。」
シフが相手の動きに不審さを感じるのも当然だ。
その気になれば数時間で到達できるはずのところを、わざわざ1日以上もかけて接近する理由はわからない。
だが、自分たちのことが外からどう見えるかならゾリグにもわかる。
気が変わったので、スラスターの出力を上げる。
30分も接近に時間をかけるのは性に合わなかった。
「ECM停止、センサーとエンジンにオールイン。」
コクピットの右側のレバーを前に倒しきる。
無駄だと知っているからか、彼を止める人間はいない。
分を示していたはずの数字がみるみると数値を下げていく。
相手が亜光速の段から降りるなら、こちらが昇ろう。
加速を増すのに合わせて、機体で動く他の装置をどんどんと止めていく。
生命維持装置を切る瞬間がいつでも一番スリリングだ。
「目標正面、ヘッドオン。」
相手の姿は見えないが、加速は止めない。
そもそもお互いが見えるような相対速度ではなかった。
操縦桿を倒して、機体を90度傾けると機体ごしにあちこちから軋むような音が聞こえる。
更にボタンを叩いて、機体に下がっていた増槽を切り離す。
コクピットの中は赤いランプと警報の音で喧しい。
次の瞬間に、巨大な気配が頭の上と脚の下を一瞬だけ過る。
右手のレバーを引いて減速をかけながら、操縦桿を上に倒して大きな弧を描くように機体の姿勢を変える。
「艦影照合、オーロラ級2隻。何を載せてるのかはわからんが、気圏戦闘機の発進口があるぞ。」
レバーから右手を放して、ひとまず生命維持装置のボタンを叩く。
パネルを操作してセンサーからの情報を拾う。
「武装が多い、ガンシップ型だ。」
ハリネズミのように砲門とチューブ船体に並んでいるのを見て、ゾリグは思わず顔をしかめる。
素直に接近してたら、今頃これらでハチの巣にされていたかもしれない。
目標の2隻の間を駆け抜けるように飛んだのが良かったのか、相対速度ですれ違ったのが良かったのか、どちらが功を奏したのかはわからなかった。
だが、5番機は一発も被弾していない。
ふと頭の上の方からの光に光学センサーが反応する。
「おっと、こいつは事故だな。」
光の正体を確かめるとゾリグはふっと笑った。
別にやろうと思ってやったわけではない。
吸殻を車の窓の外に放るくらいの挨拶程度のつもりだったのだ。
「悪いな、当てちまった。」
まさか、投げ捨てたゴミが船体を貫通するとは相手も運がない。
『ゾリグ、何をした!?』
通信機の向こうではドルマーが困惑と期待に満ちた声で説明を求めている。
──そうさ、当たらねぇかな。って思ったさ。
「光速の1/400の相対速度で、増槽をぶち当てた証拠があるのならいくらでもお縄に付くぜ。」
『そんな相対速度で7マイル未満の隙間を潜るんじゃねぇよ。』
ゾリグの軽口に艦橋からバカヤロウと叱りの声が飛ぶ。
呆れと諦めの色にゾリグは笑いを返した。