Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bay2
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
「どうしてッ!?」
サチコは悲痛な叫び声を上げる。
トヤーの手術の続報はない。それなのに何の前触れもなく、暗かった艦内の照明が一気に回復した。更に警報が鳴り響き、赤いランプが艦内に戦闘配備を知らせていた。
『本艦は30分後に旗艦を始動する。オデッセイ級航宙船との接続を切り離し、最大船速で接近中の敵艦の真正面へと進路を取る。本艦を盾にすることで目標の敵オーロラ級降下船への接近を阻止する。各員の奮戦に期待する。』
オスキャルの声が艦内に響くと彼女達と共に発進口にいた整備員が船内に退避していく。
彼の口調からは迷いを感じられない。
「相手の船は減速を始めてるんだろ?なんでだよ?」
シャロンもこの決定には不満そうだ。
オスキャルが他の誰かに相談した様子はない。彼が一人でこの判断をしたのだろうか?
その疑問に答えるかのように彼の言葉は続く。
『本決定は最上位命令である。異議がある場合は決闘の要望を艦橋まで伝えに来るように。』
艦内の空気が一瞬止まったのを感じた。
この船の中で、最上位の命令を出せるのはただ一人。
──だって、ドルジ様はクリエフチでもう...
TimberWolfの頭部を撃ち抜かれて、お亡くなりになったはずでしょう?
その後、彼に代わろうと立つ人間は居ない。
不思議とこの部隊は指揮官不在でも機能し、航行を続けていた。
『こちら機関室。いつでも回せるぞ。』
艦橋に応答するオーケの声が通信機から流れる。
いつものように短い口調だが、少しだけ困惑の感情が漏れていた。
『ベイ3、全員の準備が完了しております。』
バトルアーマーが、対艦戦闘で何をしようとしているのかは、サチコにはわからない。
ただ、ボルドの口調はいつも通りの無感情だ。
『こちら砲座で準備OKなんだけどさ、バヤルの担当がアルミ箔ってマジ?間違いだと思うんだけ...』
ミサイルマエストロの声は途中で途切れる。
彼がミサイル発射管の担当をすれば、船倉に残る在庫は一瞬で空になるだろう。
──でも、問題はそこじゃない。どうして皆、指摘しないのだろう?
サチコはシャロンと目を合わせた。
発令の内容にも、これが最上位の指示であることについても誰も異議を唱えない。
金髪の同僚の目は怒りに染まっている。
だが、彼女も命令の権限云々は気にしていない。
どこから命令が出たかよりも、トヤーの命の方が彼女にとっては大事なのだ。
『んんん?整備班は1番格納庫に集合しろ。メックの固定作業を急げ。』
オーケの指示が整備班に飛ぶ。
何人かは2番の格納庫で施錠や器具の固定を確認するために残る様子を見せている。
個々に、別のチャネルで指示がいきわたっているのだろう。
もう、現場は動き始めていた。
「サチコ、行くぞ。」
シャロンの声を聞いて、あわてて移動を始めようとする。
そんな2人に、オーケからは別の指示が下りた。
『シャロンとサチコはそのまま3番格納庫に行ってくれ。』
1番格納庫と3番格納庫では方向が180度違う。
2人は壁から突き出た取っ手を掴んで、顔を見合わせた。
「3番格納庫なら、ボルドさんがいる。」
サチコはシャロンの言葉に黙って頷くと反対方向の扉に向けて、体を押し出した。
1番格納庫に行っても、隊長格は誰もいない可能性が高かった。
でも、バトルアーマー隊の隊長ならば、何かを知っているかもしれない。
何が起きているのかを問うには、2人にとってもちょうど良い相手だった。