Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Briefing room
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
10 February 3151
「ベテランの人達のスキルセットってどうなってるんですか!みんなが全部をできるわけじゃ無いはずです!」
近隣の会議室からホワイトボードとマーカーを拝借してきて、シフが跳ねながら白い板面に格子状の線を引いていく。
格子の一番上の行に文字を書き込もうとしているが、背が届かない。
シフはブリーフィングルームに踏み台になりそうなものがないか探し始める。
若者が自身の成長指針を年長者や先達に求めるのはよくある話だ。
ユルが嘆息しながらシフのマーカーを受け取り、表の最上段に飛行隊の主なメンバーの名前を書き込む。
縦軸にはパイロットに必要な技術と知識の項目を並べる。
こうして書き並べてみると、ただ航空機を飛ばすだけの技能の他に多様な知識を要求していることがわかる。
気圏戦闘機は大気圏内から宇宙までを飛ぶ。それに応じて、求められる資質も増えた。 少し悩んでから、横軸にシフの名を書き足す。
縦軸の項目の数と書き加えられた自分の名にシフの表情が翳る。
まさか自分がベテランと並べて評価されて比べられるとは思っていなかったのだろう。 しかも、この場には彼女と同年代のパイロットが他に何人もいる。
これからユルが書く内容の如何によっては、これは彼女の公開処刑にも等しい。
彼の頭の中にあるパイロットの査定評価は20段階だが、彼女らに見せる評価は5段階に省略する。
こうして数字を書き並べると、やはりゾリグとツェレンは格が違う。同じ5でもそこには雲泥の差がある。もしも最大値を無視して評価が出来るのなら、ユルは彼らに5段階の評価で8でも9でも付けただろう。
最高評価が書き並べられるツェレンの項目をシフがうっとりとした表情で眺める。新人達の彼女への懐き方を見るにツェレンの教育に対する評価はもう少し下げても良いのかも知れない。
頂点の2人よりも少し評価が下がるのは、若きエースのドルマーと降下船の艦長から転属になったナランだ。彼らの評価については単純に経験値の問題だった。いずれは解消するだろうし、今の時点で彼らはすでに優秀な部類だ。
問題は、部隊長のユル自身だった。
シフが数字を書き並べるユルの表情をそっと覗き込む。
この数字は謙遜では無い。言い訳のしようがなく、それが彼の限界だった。
ユルは何かが表情に出てしまわないうちに、苦行を終えた。
続けてシフの評価を書き並べるが、当人はユルの列から目を離さなかった。
彼女の目にはエースでもなんでもない男の技量を表す数字は相当に衝撃だったらしい。
「部隊長さん。評価の情報、漏らしちゃダメよ。」
柔らかな声が静かに響いた。ツェレンとゾリグが並んでブリーフィングルームの入り口に立っている。
優等生2人がホワイトボードの前に来ると場の空気が変わった。
ツェレンが指先でいくつかの数字を書き換える。
その数字はまだ承認されていない、最新の評価の値だった。
ツェレンからマーカーを渡されたゾリグは一瞬迷ったような表情をする。
だが、すぐに縦軸に項目を追加して、数字を書き込んだ。
ユルは顔をしかめる。
「散歩」と書かれた項目名とユルへの「5」の評価に場が笑いに包まれた。