Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , OR
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
「閉胸を始める。」
マリオの静かな声がシタを打ちのめす。
──時間切れ。
本来ならば、時間はもうとっくに切れていた。
そこを艦橋が、本当にギリギリまで堪えてくれただけなのは分かっている。
最善を尽くした。という言葉が今ほど言い訳に聞こえたことはない。
これでもうトヤーの笑顔が、自分たちの元に返ることは無いのだ。
ゾリグに何と言葉をかければ良いのか、シタにはわからない。
もうサチコと目を合わせる勇気が無かった。
整備班の面々は、もう二度とシタの診察を信じないのではなかろうか。
「シタ君、これは悪い話ばかりでは無いぞ。」
失望に表情を曇らせた女医に、マリオは元気な声をかける。
彼女が何もしなくても、彼の手は既にナイロンの糸を握っていた。
「後が無くなったということは、今まで挑戦できなかったことに手を出せるということだ。」
失望するのはまだ早い。湾曲した針を鈎の付いたピンセットで操りながら、彼は顔に不適な笑みを浮かべる。
「機関始動後に加速を始めるまでは機材の片付けと準備を並行してもらう。絶望するのはもう少し後にしたまえ。」
年若い後輩の弱気を笑うかのような声に彼は本当にまだ諦めていないのだと感じ、シタは自分を恥じた。
「どうせ、死なせてしまうのなら、殺すつもりでやりたまえ。」
そうすれば、やるだけのことはやったと自信を持って自分に言える。マリオが続けた言葉は果たしてシタに向けて言ったのか、それとも自分に言い聞かせたのか。
彼はその目で何人もの若者を看取っただけでなく、何人もの若者をその口で死地に送り込んでいるはずだった。遠くの星系でかつては仕事の仲介人もこなしていたというこの熟練の医者がどのような企みで、この励ましの言葉を紡いでいるのか。
それをこの場で見抜くにはシタは余りに井の中の蛙だった。
「とは言ってもやれることは2つくらいだな。シタ君、電気ショックの準備をしてくれ。」
「先生、心停止している今となってからでは...」
意味がない。と続けようとして、シタは首を振る。さっきの彼の言葉を思い出してみれば、その目的は明らかだ。
「賢いじゃないか。そうさ。」
マリオは取り出した聴診器で、トヤーの身体の中の音を確かめている。
続く、彼の言葉はシタの想像した通りだった。
「用途のわからないインプラントどもを全部ぶっ壊すのさ。」