Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bay3
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
「おうおう、ボルドさんよう機関始動って...」
どういうことなんだよ。と両腕のパワーアームを唸らせながら、シャロンは格納庫に入場する。
翡翠の装甲を身につけた大男が10人並んでる中にかよわい女子が二人殴り込みに行くのなら、それなりの勢いというものが無ければ、そもそも争いにすらならない。
「ひぅっ!?」
サチコの怯えた悲鳴が背後から聞こえた。
良いところのお嬢さんでまだ年若い彼女には、やはり11人の大男の威圧感は強烈に違いない。
──ん、何で11人もいるんだ?
10人のバトルアーマー兵の前に軽装の宇宙服を着た男が一人いた。
ヘルメットのバイザーで人相が隠れて、それが誰なのかはわからない。だが、服の装飾から随分と偉そうな立場の人間なのはシャロンにですらわかった。
腰に下がった3本の投げ斧と、一丁の大型の実弾銃。真空中では、火薬式の銃は何の役にも立たない。それでも一部の士官や佐官が実弾銃に拘るのは装飾性が目的でしかなかった。
しかし、どうしてかシャロンはその男の銃をコケにする気にはなれない。
明らかに使い込まれた形跡の残るグリップといい、どう控えめに見積もっても彼はそれを実用しているに違いがなかった。
「さ、最上位命令ってどういうことだよ。」
男のヘルメットが自分の方を向いたような気がした瞬間に、シャロンは自分の戦意が吹き飛んでいくような錯覚に陥った。
頭の先から足の先までを、まるで値踏みでもされているかのような視線を感じる。その場に射止められたかのように足が竦んで動かなくなっていた。
重量を感じさせる足音と共に男が近づいてくるとシャロンは息すら出来なくなる。
男が左右から眺めていても、背の方に回っても獲物を睨む猛禽の眼差しに怯える彼女は首を回すことすらも出来なかった。
いいモノを付けているな。そう言って男はシャロンが両肩から下げていた腕甲に手を触れる。
「脅かしすぎです。」
いつの間にか、近くに寄ってきていたボルドが男の手を抑えたおかげでシャロンは短く息を吸えた。
「シャロン、ご自慢の腕を作戦中、お借りできないでしょうか?」
ボルドの口調でようやくシャロンの中で気がついた。
──こいつだ、こいつが命令を出したんだ。
「トヤーを見捨てるような命令を出すヤツに、貸すもんか。」
股下で水分を察知した宇宙服が吸引を始める。格好が付かないのを誤魔化すために唇を噛み締めながら、シャロンは精一杯男を睨みつけた。
「シタは必ず間に合う。」
目の前の男が発した声には聞き覚えがある。
短い、不要な言葉を全て排した僅かな言葉にも。
誰もが指示に従うはずだ。
この男が出した指示に異を唱える人間がこの部隊にいるはずがない。
なぜなら、この男が全ての中心なのだから。
誰のこともこの男は見捨てなかったのだから。
──シタ先生は間に合わなかったじゃんかよ。
トヤーが帰ってこないかもしれない。シャロンにはそう口にする勇気は無かった。
今回ばかりはダメかもしれない。そう思うだけで、胸はつっかえて目からは涙が溢れる。
僅かな沈黙が男とシャロンの間に流れた。
格納庫の沈黙を破ったのは、船の中のスピーカーだった。
『医療班です。こちらの準備も完了しました。』
シタの事務的な声ががらんどうの空間の中に響く。
10時間以上、閉じこもっていた彼女が何を告げるのか、シャロンは祈るようにスピーカーの方を見つめた。
『アメノイワトヒラク。』
不可思議な言葉に続けて、女医は皆が待ちわびた言葉を吐く。
『トヤーちゃんは存命です。』
その瞬間、船のあらゆる場所から勝鬨が上がった。