Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.23_01
Union class Dropship , Bridge
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
「機関始動、接続アーム解除」
『機関始動、連結解放』
機関室がオスキャルの指示を復唱すると船体がゴトンと大きな音を立てて動き始める。
力に満ちた唸りが球体の下部から全体を震わせた。
「ナランが居るのにすっかり慣れちまったな。」
ざっくりと指示を出せば、思った通りに船が動くという稀有な経験をすると自分で船を動かすのが億劫になる。
衰えは、認めたくはないが現実とは非情だ。
もう、自分では彼のような操艦は出来ない。
『片手間とは言え、こっちは手伝ってんだから文句言わないでよね。』
余りに思い通りにならないので、アリマに一部の制御の手伝いを頼んでみた。だが年季の差、熟練の差は埋め難い。
「文句じゃねぇさ。ただの賞賛だ。」
ウチの船員にならねぇか?と聞いても、あの男は首を縦には振らない。そうすると、あの操舵士を失わないためにオスキャルはこの部隊の脚を担い続ける他ない。
ナランの件を抜きにしても、この部隊にはまだもう少し見ていたい若造がゴロゴロ転がっている。
この子煩い生意気娘もその一人だ。
僅かな調整を繰り返して、2人がかりで船体の姿勢と進行方向を安定させる。ほんの微細に違う部分はおいおい直すしかない。
修正の回数が少ないほど、燃費の良い操舵士というわけだ。
『噴射、逆噴射、スピン安定を3動作で終わらせる方がオカシイのよ。』
アリマの憤慨はご尤もだが、世にはそれが出来るヤツが居るのだから仕方がない。
『で?シタの符牒はアンタの仕込みなわけ?』
「いいや。俺は何も教えてない。」
『あの女医が自分であの言葉を考えたはずないでしょう?』
アリマの指摘は正しい。
それにもしあの符牒が無ければ、ほとんどの人間は彼女の言葉に疑いを持っただろう。
予定時間を4時間もオーバーして、存命だけでは誰も納得しない。
伝える言葉は変わらなくても、枕詞を置くだけで印象は変わる。あの符牒は実情をうまく隠しただけでなく、船内の士気も上げた。
彼女の思いつきでないことは、彼女に近い人間であればある程、すぐに分かる。
「シタ君は良い師を得たってことさ。」
『また胡散臭いのが増えたのね。』
アリマの答えにオスキャルは鼻を鳴らす。
通信席に向けて声をかける。
「何か言われてるぞ。」
「ヤダなぁ。いつも聞き耳を立てている人みたいに言うのは止めてくださいよ。」
振り向きすらせずに、アレフは抗議の声を上げた。
「もし僕がいつも聞き耳を立ててるんだとしたら、艦長への最上位命令の下知を聞き逃した僕はとんでもない無能者だ。」
「そうでもねぇさ。この船じゃ常識は通用しねぇからな。」
情報を手に入れ損ねた浸透工作員を慰めるなんて経験は他じゃ出来ねぇからな。
オスキャルは両手を頭の上に上げたアレフの反応を見て笑った。彼は明らかに少し苛立ちを覚えている。
それでも発狂しないでいられるというのは、この男もこちら側に染まっている証左だった。