Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Aurora class Dropship , Bridge
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
『1番と3番で火災発生。』
『左舷の砲座は壊滅です。』
「旗艦、応答なし。目標艦はなおも接近中。」
艦長どうしますか?などと問われたところで、答えなどあるはずも無い。
二艦が接近した布陣を敷いていたせいで、艦隊が受けた損害は単艦では収まらなかった。
気圏戦闘機が放った最初の攻撃の正体は何もわかっていない。
だが、その攻撃はこの船の左舷に飛散した旗艦の破片をモロに浴びせた。
威嚇飛行だろうと軽んじて、一切の対応をしなかった結果、この艦隊は戦力の3/4を喪失している。
この状態で彼らにできることは少ない。
今はこの船がこの艦隊の一番艦の座にある。
「敵艦との交差戦闘は右舷側で行う。取舵方向に艦体を修正しろ。」
艦長の指示に応えて、艦が姿勢を変える。
体にかかる圧力の方向の変化で感じることができた。
本当ならば、減速などやめて戦域から離脱したい。
だが、相手はこちらが舵を切ったのに合わせるかのように、同じ方向に舵を切ってみせる。
どうあっても、相手はこちらと一度は砲撃戦を交える気らしい。
せめて、応射ができるようにと生き残った乗員に砲座に着くように指示を出す。
しかし、彼は光学センサーが捉えた僅かな船の影を見て絶望した。
ユニオン級の頂点から底点までを、リング状に分厚い装甲板が覆っている。
その下に衝撃吸収用の空白の区画が設けられていることは外殻越しでも判別がついた。
──バルクヘッドを巻いていやがる。
敵は真意を隠すかのように、発砲を始めている。
オーロラ級の流線型の艦体は、すぐに何条もの光の線に撫でられた。
「敵艦から発光。撃ち返しますか!?」
叫ぶ通信兵は、恐怖で首と背を縮めている。
彼も相手の真意を薄々察しているのだ。
お互いに衝突し合えば、ただでは済まないような速度で接近している。
だが、相手の艦の意思はもはや疑うべくもない。
対航戦での砲撃戦などという生易しい魂胆ではない。
距離を空けて、周囲を舞っている気圏戦闘機に気を取られている場合ではなかった。
──最初の対艦攻撃が体当たりってのは、どういうことなんだ!?
例え正面衝突は避けられたとしても、こちらの船体には相手の装甲が掠めるだけで、とんでもない大穴が空く。
その攻撃で、この船に残された右舷は間違いなく壊滅だ。
既に無音になっていた左舷で相対すべきだった。と後悔しても、もう遅い。
「対ショック姿勢っ。何かにつかまれっ!」
怒鳴り声をあげて、椅子の肘掛けを掴む。
ブリッジの右舷側の船窓の外に目をやれば、ちょうど赤い鋼板が暗闇から飛び出てくるところだった。
強い衝撃で自分の身体が席から引き剥がされる。
すぐ目前を「赤ちゃん乗船中」と描かれたカラフルな文字が通り過ぎていく。
その直後に金属が引きちぎれ、拉げる音が連続して聞こえた。
強烈な吐き気と共に胴が艦橋の壁に叩きつけられ、意識が朦朧とする。
しかし、次々と全身に降りかかる大小の破片が繋ぎとめた。
目を開いて、艦橋が右舷側からメリメリと潰れていく様子をただ眺める。
「ご乗船の感想はいかがでしたか?」と描かれた文字が右から左へと流れていく。
大きく開いた船殻の外、赤い船体が船尾の方へと消えていくと船の振動は止む。
やがて、艦橋から空気の抜けていく音の他は、何も聞こえなくなった。
赤い警告灯が回り、艦橋から船内に繋がる隔壁が閉じていく。
──誰か、生きているか?
そう声を出そうとしても、口を開いて出てくるのは赤い煙か霧のような液体だけだった。