Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Lake area
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
10 Febuary 3151
オチルは死ぬと思った。今もそう思っている。
「飛ぶぞおおおお!!今日もショーの時間だぜぇえええ!」
装軌車両が飛ぶ想像がつかない。しかし、直後にオチルの全身に襲い掛かった浮遊感は本物だ。
横でハンドルを握る“彼”が叫ぶたびに、オチルの寿命が削れていく。
ここは戦場だ。先日も悪天候だったせいで敵も味方も泥まみれでまともに動けていない。
だが、ここに唯一の例外がいる。このミサイルキャリアーだ。
ミサイルマエストロを名乗るバヤルには、ここが音楽堂にしか見えているらしい。
先日と同じ傭兵団が今回の目標だ。
前回、辛酸を舐めさせられたWolverineとThunderboltの再発見の報を受けてドルジ達は再出撃した。
TimberWolfの支援にパワーアーマーのボルド隊と火力支援用のミサイルキャリアーが就いた。
前回よりかは火力がドルジ任せではなくなったはずだった。
オチルはアレフと共にこのバヤルの車両に乗り込んだ。
オチルの担当は通信。アレフは弾着観測。車両の主な操作はバヤル任せだ。
異変はすぐに訪れた。
オチル達が乗った車両は本来は静かに、慎重に、冷静に、後方から敵にミサイルの雨を降らせる支援車両のはずだ。
戦場の真ん中に出る役割ではない。
それなのにオチルの座席の覗き窓からは、味方も敵も全て映り込んでいた。
まるで舞台の中央に車両ごと晒されているようだった。
「そらァアアアア撃てぇえええ!!今日はロケットの大バーゲンだ!!」
ボルド隊から照準器に送られてきた目標座標に向けて、どんどんとミサイルが乱射されていく。
照準器の目盛りは関係がない。彼は魂で撃ってる。
「命中弾なし!」
「愛は目に見えねぇのさ、オチル!戦場は、魂が火を噴く場所だろ?」
アレフの弾着観測が虚しい。
激しい急旋回にオチルの視界がぐるぐると回る。
車両がスピンターンをキメている。キャリアーの左側が泥濘にはまり、次の瞬間、右キャタピラが泥を蹴り上げて跳ねた。
オチルは一瞬、呼吸の仕方を忘れていた。
「ヒャッホォォーーッ!!俺たち泥まみれぇぇ!!これぞ大地のマッサージだぜ、どうだい愛しのキャリーちゃん!!」
外の空気が欲しくてハッチを開け、上を見上げれば、敵の戦闘機が飛んでいる。
目標はTimberWolfとミサイルキャリアーの目、ボルド分隊だ。
「仰角60°!豚が空を飛んでやがる!!ブタァアアアア!!」
「照準カット、たっぷり花火をあげようぜ!」
ミサイルのシャワーが空を裂いて飛んでいく。ノリで撃ったはずのミサイルが敵戦闘機の腹を掠めて飛ぶ。
ほんのわずかに、衝撃波で機体が揺れた。
狙ってやったのか、偶然か。敵戦闘機の攻撃がボルド隊を逸れた。
やった本人はキャリアーのハッチを開けてご機嫌で指揮棒を振っている。
ハンドルから手を離さないでほしい。
指揮棒の動きに合わせて再びランチャーが火を噴く。何発ものミサイルが大地に突き刺さる。
あまりに迷惑だったのか、WolverineとThunderboltを支援していたガレオン戦車2両がミサイルキャリアーに急接近する。
「あいつら何!?敵だよな!?こっち見てるぞ!?」
「ようし、見てろオチル!超絶テクニック発動だァ!!」
キャリアーは少し後退すると左右にスリップしながら砲撃を避け、泥の上を跳ね跳んだ。
オチルとアレフは座席のバーを必死に掴み、耐えた。お互いの顔が恐怖と遠心力で歪んでいる。体を固定するハーネスの締め付けがきつくなった様な気がした。
ガレオン戦車の砲撃は続けて何発もキャリアーを翳めたが、キャリアーはくるりと旋回、一瞬停止の後に再び前に向けて加速を始めた。
ふと、頭の上のハッチが開いていることに気がついて、ぱたんと閉じた。
そのダンスの間にボルド隊は敵戦闘機に再攻撃が直撃し撤退を余儀なくされたが、バヤルはリズミカルにミサイルランチャーの照準モードを直接照準に切り替える。
ランチャーの角度が低くなり車両の重心が下がった。
「愛を込めて、サルヴォーだァ!踊れ!踊れ!踊れェエエエ!!奴らの上にL・R・M!!」
車両に括りつけられた磁気テープの再生機の音楽に合わせて、ランチャーが轟音を奏でる。既に数百発を放っているが、全てが大地に花を咲かせた。
バヤルにとって、当たるかどうかは問題ではない。撃つこと自体が存在意義なのだ。「この音が俺の心臓の鼓動」だと。
恐怖のせいか、気がつけばアレフの弾着報告が止まっていた。
TimberWolfがWolverineに猛接近し、Wolverineが轟音を立てて倒れたが、オチルにはそれを確認する余裕すらない。
今、彼の世界は、キャリアーの揺れとバヤルの叫び声で満ちていた。
狭いキャリアーの騒乱の外で、傭兵団のWolverineはドルジに装甲を焼かれ、剥がされていた。
名を「社畜」と称する彼らだが、余計なサービス残業には手を出さない。
過剰な損失には過敏に反応する。
こんな戦場に居られるか。とばかりに撤退を始めた。
オチルは泣きながら叫んだ。バヤルはいつからか歌っていた。
「帰ろう!頼むから!帰りはそっちじゃない!止まれ!!」
「止まるのは心臓だけだァアアア!!俺はまだ踊れるッ!!」
まるで遊びの続きをせがむ子どものように、残されたミサイルが後退する傭兵たちに無慈悲に降りかかる。
叫び声、爆発音。
撃ち尽くされた地獄の中を、煙と火花を散らして、敵のメックが這うようにして撤退していく。
背中を伝う汗が、泥と混ざって冷たかった。
目の前で何かが壊れた気がした。正常とは何だっただろう?
隣のアレフは笑っていた。声はなく、ただ口元だけが、ゆっくりと歪んでいた。