Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
『ウーティスはナウシカと共にペーネロペーの元に帰郷した。』
秘匿チャンネルでナランの声が全ての作戦の真の完了を告げる。
しかし、事前の符牒とは内容が微細に違う。
――ナウシカアー?
女性を伴っているということだ。というのもわかるし、彼であればそういうことがあってもおかしくない。
予定外のことがあったということだが、なんのことやら。
通信席の方を見かけると、アレフが小難しそうな表情をしているのが見える。
それはそうだ。
符牒を故事に照らし合わせれば、この内容には波乱の予感しかない。
考えても仕方のないことに頭を悩ませるのはやめてオスキャルは次のことに思考を移した。
「ウチに届くはずの荷物は、今どこに居るんだ?」
『今、こっちでウチのお姫様と白雪姫と王子様をやってるわ。』
通信機に問いかければ、今度はアリマが謎かけを返して来る。
今、救護区画には女性が少なくとも4人居る。
――誰と誰がどうなってるんだ?
符牒遊びを始めたのは艦長である自分だったが、こんなに通じないものだとは思わなかった。
やはり、適当に定めるのはダメだっだか。
多様な文化がひしめくこの船の中ではあまり相応しくない手法であることを思い知る。
「はよ、上がって来るようにと急かしてくれ。他の捕虜の処遇が決められねぇんだよ。」
アレフと艦橋に2人という状況にも正直飽きてきた。
どうやら、彼は本当にこの船に協力してアリイナまで行く気であるらしい。
――つまらん。
艦長席で不貞腐れる。
無意な時間を過ごすのに耐えられず、艦長席の下に仕込んだ冷蔵スペースを開く。
どの軍需物資ならば、この不満を和らげてくれるだろうか?
いくつかのガラス瓶を取り上げてラベルを見比べていると艦橋の入り口が音を立てて開く。
「ようこそ、血塗れた灰色熊の巣へ。ご客人殿。」
ショートカットの髪の毛を揺らして現れたパイロットスーツ姿の女性は堂々とした歩みで、艦長席の前までやって来る。
突き出た胸が誇らしげに揺れて、彼女の心がまだ戦意を失っていないことを示す。
その後ろにシタがピッタリと付いている。
なぜ、ボルドではないのか。と問うような無粋はしない。
「ご婦人は炭酸水はお好きかな。どれも天然の水を使っている。良いものだ。」
いくつかの瓶はホンモノの地球産のビンテージの瓶に中身を入れ直したものだ。
その中でも一番の古さを誇る手元のガラス瓶のラベルを彼女達に見せる。瓶の上の方に「RYUKYU ISLANDS」と白い印字の残る博物館が失神しそうな希少品だ。
こういうものはこういう時に使うに限る。
「お招きいただき、礼を申し上げます。」
自信に満ちた表情を変えることなく、彼女はオスキャルを見上げる。
「ボクの名前はヌル。ヌル・イカザ。」
ハッキリとした声の中で主張している若者特有の生意気さに老兵は口元を緩める。
胸に手を当てて、彼女が語る自分の紹介に耳を傾けた。普通ならば、この後に延々と大したことのない戦果が並ぶ。
「JadeFalconのメック戦士で、オドントヤーの姉、眠る彼女を目覚めさせた王子もこのボクだ。」
なんの誇張もない彼女の成果にオスキャルは堪らずに大きな笑い声を上げた。
――これだから、面白い。
退屈などまっぴらだとこの船を手に入れて、波乱の航海を続けた甲斐があるというもの。
半世紀、船に揺られていてもなお、こんな奇天烈な名乗りは聞いたことが無かった。