Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
8 January 3152
「お前さんの言うことが正しいとすると、お前さんは12才の少女の時に19才の青年を何人もボコボコにしてることになる。」
オスキャルと名乗ったこの船の主人はヌルの説明を聞いて、そう要約した。
「ご理解が早くて、ありがたいよ。言い方は気になるけれど、その通りさ。」
少し気取ったポーズで、老艦長にウィンクを送る。
7年前にヌルは海賊の襲撃によって壊滅したシブコから救助された際、本来の年齢よりも7つ上の年齢を申告した。
氏族は施設の唯一の生き残りである彼女について、あまり良い感情を持っていなかった。
訓練場のデータベースが完全に破壊されていたために、彼女の出生を証明するものが何も残されていなかったのだ。
自分の価値を証明するために地位の審判を願う。
そのためには最低でも19歳である必要があったのだ。
「別の施設の訓練生をコテンパンにする必要があったから、何人かの人には大層恨まれてしまったけどね。」
前髪を少し弄りながら、ふっと笑って見せる。
65インチの身長は、メック戦士としてはだいぶ低いが世界の平均で言えば僅かに高めだ。
EIインプラントを体に仕込んだ際にそれ以上に背が伸びないようにと遺伝子操作を受けたが、その分胸や体付きは年月と共に成熟している。
ヌルの姉妹達は皆、貧相という言葉とは無縁だ。同性異性を問わずに、心を惑わす質量を持っている。
「そんなに都合のいいことがあるもんかね。」
だが、目の前の老人にはヌルの色香が通じている様子はない。
ふん、と鼻を鳴らして視線を彼女から逸らしてしまう。
「お前さんのところの訓練所のデータは確かに無かったけどよ。氏族の鉄の子宮から産まれた訓練生のデータベースの一部は俺たちでも見れる。トヤーの同期にヌルなんて名前はねぇんだよ。」
ヌルの隣にいた女医がオスキャルの言葉を肯定するかのように僅かに頷く。
頭の後ろに纏めた髪の束の端から覗くオリーブ色の首筋をヌルは横目で確かめる。
どう見ても、中心領域の人腹生まれの女性だったが、白衣の上からでも彼女の身体のラインとその所作から滲み出る何かは異常だった。
優美とも優雅とも違う、舞にも似た腕や肩、指の動きにヌルは嫉妬すら覚える。
それはそれとして、彼女がそこまで調べているのならば、話は早かった。
「さすがだね。ヌルという名前には光という意味があるのだけど、それ以外にも0という意味がある。」
表情に笑顔を貼り付けたまま、天に向けて差し伸べるように右の手をスッと差し出す。
「そのデータベースではボクは一番上、ウーリントヤっていう名前で登録されているはずさ。ボクは夜明けの光、ナンバー0。姉妹の長姉なのさ。」
「確かにデータにウーリントヤの名前があります。6月28日産まれ。」
ヌルが口にした単語を聞いた女医がすぐに彼女の言葉を肯定する。誕生日までを諳んじられて、ヌルは心の内で一切の嘘を付かなかった自分を褒めた。
「なるほどねぇ、どおりで正体が掴めなかったわけです。最初っから、嘘八百とは恐れ入ります。」
通信席に座っていた男の小さな声は、音の少ない艦橋ではハッキリと聴こえる。
どんな意味が込められているのか、ヌルはそちらに視線を向けた。だが、通信席の男の様子は椅子の背に邪魔されて何も見えない。
「まぁ、この船だと何にも珍しくないわな。もっと摩訶不思議なことが平然と起こるからな。」
一方、その言葉を聞いた艦長は首を竦める。
「一旦、お前さんらの事情は承知した。その上で、俺たちのお前さんらへの処遇をお伝えする。」
彼の声のトーンが少し低くなり、彼の話が本題に入ったことをヌルは察する。
少し肩に力が入った。
「実に残念なことに、本艦にはお前さんらを入れる独房の用意がない。」
――処刑か、元の船に戻るか。
ありがちな選択肢が彼女の頭に思い浮かぶ。
略奪の際に、捕虜を取ると稀にその選択が発生した。
命乞いの叫びとその後の悲鳴と銃声はだいたいセットになる。
オーロラ級の船員達はそれを楽しんでいたようだが、ヌル達はそれを見るのすら嫌がった。
いずれ、自分たちもそうなるのだ。という予感に内心では怯えていた。
ついにその日が来たのかと、ヌルは目を瞑る。
無慈悲な宣告をただ待った。
「よって、お前さんらには本艦の戦士の1人となり、更なる戦働きをするか、この場で名誉ある死を受け入れるという2つの選択肢をご用意した。」
形式ばった宣告から間を置かずに、流れるように艦長は言葉を続ける。
「まぁ、後者を選ぶヤツはいねぇわな。」
口ではそう言いながら、老艦長はどこから取り出したのか、黒鉄色の実弾銃を手にする。
シリンダーの回す音が、室内に響いた。
しかし、ヌルはそんな音よりも彼が口にした選択肢に困惑を覚えている。片方の選択で得る利益があまりに大きい。
「選択肢、もう一度聞いてもいい、かな?」
ヌルは務めて平静を保ちながら、人差し指をピンと立てて見せた。