Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union Class Dropship,Bay2
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
9 January 3152
会談を終えたヌルは格納庫まで戻ってきていた。
途中までは医官と一緒だったが、彼女は病室のある階層でさっさと降りて行ってしまう。
放置されてしまった彼女は仲間の元に戻って、もう一度困惑の浮かべる。
マイとエノリが、義手と義足の少女を挟んで並んで座り、3人で同じ格好で何かを啜っていた。
「キミはさっき、麺を食べていた子。」
少し前の記憶を必死で手繰って、彼女の姿を思い出す。
ヌルがそういうとシフと呼ばれた子はムキィ!と声をあげた。
「なんで、わたしのイメージがみんな食なんすか。もっと、船のエンジンを停めた、とか上部の機関砲を黙らせた、とかそういう評価が欲しいっす。」
立ち上がって、悔しそうに金属の脚を床に打ち付けて、本当に文字通りの地団太を踏み始める。
彼女の言葉にも驚くが、大腿の下半分から全てが義足なのにも関わらず、その動きができる彼女の技巧もヌルにとっては衝撃だった。
「すまないね、ボクたちはそういう値の張る食事とはここ数年、無縁だったんだよ。」
シフが振り上げた左手から飛び出した椀を片手で捕まえながら、彼女の不満を言葉で宥める。
1Gに満たない重力に引かれて床の方向に落ちていく中身の塊を、椀で全て受け止めて肩を降ろす。
「あと、球体型の君たちの船と僕らのような空力型の降下船だと重力のかかり方が違うからね。こういうものは食べにくいのさ。」
ヌルはシフが激しい動きを止めるのを待って、お椀を彼女の手元に戻した。
何か納得のいかないという表情を浮かべて、シフはお椀の中をじっと見つめている。
「それで?君たちは何を食べているんだ?」
「ライスヌードルのスープだそうだ。」
2人にそう訊ねると、マイがフォークに巻き付けた麺をヌルの口元に差し出してきた。
顔の前に落ちてくる髪をかき上げて、そのままフォークに齧り付く。
「なるほどね、こういう味か。口触りが良いね。」
弾力のある麺を噛みしめると麺の中に沁みていた液体が口の中に広がる。
これだけでも、あの艦長の不審な誘惑を呑んだ甲斐があったというものだ。
「ボクたちは、これからこの船の所属になる。」
マイやエノリとは目を合わせないように格納庫の中に首を向けながら、ヌルは彼女たちにこれからの処遇を伝える。
死んだ3人の仲間のことや、他の船員のことを忘れたわけではない。
だけど、これから先のことを考えれば、海賊という生活から足を洗う機会をくれた彼らのことを恨むことはできなかった。
残る3人も同じように思ってくれれば良いが、こればっかりは強制できない。
「別にいいんじゃないかな。」
「割り当てメックがないのは一緒だしね。」
幸いにも、マイもエノリも反対の言葉は口にしなかった。
あとはエレナにも同じことを伝えるだけでいい。
実はさっきから周囲を見渡しているのだけど、彼女の姿が見当たらない。
「あれ?エレナは?」
「ゴム弾のオジサマからずっと離れていないはずだけど。」
ちょうど麺の途切れたエノリがヌルの問いに答えた。
彼女の様子は明らかに不審だったので、皆、口には出さないが心配をしている。
ひょっとしたら、入れ違いで病室に行ったのかもしれない。
ヌルは時々マイが差し出すフォークの先に巻き付いた麺を貰いながら、後でもう一度自分の妹に会いに行こうと決めた。