Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union Class Dropship,Medical Sect
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
9 January 3152
「実質第5回っ!」
「トヤーちゃんの余生を考える会議〜っ!」
トヤーとシタのかけ声に合わせて、イェーイっ!と歓声が病室に響く。
少し間を置くと、小さな兄妹が寝台を覗き込む観衆達の前で口に笑みを浮かべる。
「おおおっ、かーわーいーいー。」
その小さな反応にトヤーは歓喜の声をあげた。
まだ、視力が定まっていないのか、バトアルマスもオユントゥヤも不思議そうな表情で辺りを見回している。
その頼りない反応が、女性陣の母性をくすぐって止まない。
そもそも男性がこの場にはマリオしかいないのだから、彼以外の全員が2人の赤ん坊を囲んでキャイキャイと騒いでいることになる。
会議とは何であったのか。と若い女性達のやり取りを眺めていると、幾度か時計に目をやっていたペトロワが声をかけてきた。
「先生、トヤーちゃんの話を聞かせてください。」
手術室の前でその終わりを10時間も居眠りもせずに待っていただけはあって、彼女は手術の結果をとても気にしていた。
同性のシタに聞くのではなく、執刀医だったマリオに訊ねるのは彼女の真剣の証だろう。
「うむ、トヤーのEIインプラントの除去手術は一旦は成功している。」
こういう時の隠し事はためにならない。マリオは彼に不安そうな表情を向けるシタのためにも、あるべき医者の姿を見せるつもりだった。
「ただ、彼女の身体にはそれ以外にも色々と機械が仕込まれていたようでね。それが悪さをしたのか、彼女の心臓は何度も止まったわけだ。」
この場の誰もが知っているトヤーの心停止の裏側をしっかりと語る。
「他のインプラントがどう相互作用をしているのかは、正直誰にもわからない。彼女に機器を埋め込んだ医師ですら把握していたのか、怪しい。」
マリオは膝に手を置いて、ペトロワの目を見てあの時の状況をそのまま語った。
嘘は人の心を動かさない。これから語る暴挙をどう彼女らが受け取るかは、事実がどれほど彼女らの心に作用したかにかかってくる。
「だから、時間も無かったことだし、トヤー君の胴部に電撃を流して全てを破壊した。」
金髪の子だけはその言葉に感心したような反応を返してくれる。だが、正常な反応はその他の娘の引き攣ったような表情だ。
しかし、マリオはこの手術がもたらした成果だけははっきりと強調しなければならない。
「その後にシタ君と行った検査の様子を見る限り、トヤー君が神経の摩耗で半年以内に命を落とすようなことは無いだろう。」
「トヤーは、半年でないのならば、あと何年生きるのでしょう?」
一番の問題は解消した。と言い切ったマリオにサチコが問いかける。
年若く小柄だが、実に聡明な女性だ。
「胴体に残った破損インプラントや必要なインプラントの再導入をしなければ、余命は6年といったところだろう。」
「おお、一気に12倍じゃんか。」
シャロンの言葉は短慮で内容としては褒めるに値しない場合が多い。1秒を12秒に延ばしたところで称賛される場合はほとんどない。25歳で死ぬのならば、それはまだ立派な悲劇の範疇だ。
「アリイナに行ったら、その必要な氏族のインプラントが手に入って、また余命が伸びるんだろ?」
だが、その直感的な未来予測は素晴らしい。マリオが説明すべき領域を侵害していなければ、だったが。
「アリイナに行けば、インプラント以外にも再生医療という手が取れるはずだ。これはトヤー君の身体の細胞から、欠損した部位を再生して移植する手段で機械を埋め込むよりも身体の拒否反応のリスクが少ない。」
この説明でサチコがホッと息を漏らす。
それを見たシャロンとペトロワはお互いに目を合わせると、それ以上は何も言わなくなった。
「つまり、アリイナに行ったらまた手術ってこと?」
代わりにトヤーが悲しげな顔になる。
今回の手術では、色々な人が彼女にために苦しんだり悲しんだりしていた。トヤーはその繰り返しを嫌がっている。
「しばらくは、また検査だ。それに次はこんなに難しい内容にはならない。よく分からないものは今回、全て破壊してしまったはずだからな。」
マリオがそう言っても、トヤーの表情は柔がない。今回の一件ですっかり彼女は手術が嫌いになってしまったようだった。
トヤーが更に医者までを嫌いにならないようにするケアはシタ君に任せる。マリオは心の中でそう決めた。
「ところでさぁ、あのお姉ちゃん誰?」
「トヤーのお姉様、ではないのですか?」
トヤーの疑問に更にペトロワが質問を被せる。
彼女はそれに首を振って答えた。
「全然知らない人。そもそもオドントヤーって誰だろう?あたし、ただのトヤーだし。」
彼女の言葉に、マリオとシタ、そしてアンネの悲しそうな視線が空中で絡み合った。
――なるほどね、少なくともこの3人は彼女の過去の名を知っているのか。
彼女の過去の記憶はあのインプラントと共に消え去ったとマリオは思っていた。
だが、氏族の遺伝子の呪いというものはそうそう呪縛を諦めてはくれないらしい。
病室を包んだ、不穏な空気は小さな男児の機嫌を損ねてしまう。
大きな絶叫がその場に在る全ての鼓膜を叩く。
視線と集中はそちらに一気に逸れてしまう。
一番にそこに駆け寄ったのは母親だ。
アンネは静かに白い衣の前を開く。
顕われた大振りの果肉にバトアルマスがしがみつく。その先端を探り当てて、口に含むと口の端から白い乳を溢れさせるほどの勢いでそれを吸い始める。
液体が喉を通る音は病室のどこからでも聞こえるほどに大きかった。
「なぁ、バトアルマスがちっちゃいのかな?」
シャロンが首を傾げる。
アンネの乳房は、誰の目からでも赤子の頭よりも大きな球に見えた。それは錯覚ではない。双子が揃って彼女の胸にしゃぶりついても、枯れることの無さそうな質量がそこには2つも実っている。
「あたしも、子ども欲しいなぁ。」
トヤーの漏らした声を聞いて、マリオとシタは静かに視線を合わせた。