Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union Class Dropship,Jail
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
9 January 3152
「何で俺が?」
壁の向こうから聞こえるもはや聞き慣れた声にエミリーヤは嘆息した。
あの男は今度は何をしたのだろう?
そこだけはほんの少しだけ、興味があった。
「扉を壊したのお前じゃん?」
「いや、だからマジで悪かったって。」
シャロンの少し苛立ったような声が聞こえる。
また、彼らはどこかの扉を破壊したのか。エミリーヤは隣人の会話への興味を一気に無くす。
「本当はお前だけが入れば良かったんじゃん?」
「そうだよ。」
「何で俺が独房に入るのさ?」
連帯責任、監督責任。漏れ聞こえる疑問の答えがエミリーヤの頭の中を駆け巡る。どれも、エミリーヤにとっては、懐かしさすら覚えるような単語だ。
小さなミスでも見逃せば、それは大きな影響となり、自らの足を引く。幾度も見てきた失速への第一歩だ。
どうやら、オーケが激昂しているのは、自分が独房に入れられたことについてではない。
そのことについて、原因を作ったシャロンは彼としきりに別の件で会話をしたがっていて、オーケはそれが気に障っている。
彼の独房入りの件が、シャロンに軽く扱われてしまっているように感じてしまっているのだ。
――面倒な二人だねぇ。
エミリーヤは腰掛けていた寝台から離れると、独房に備え付けられた吸水機のスイッチを起動する。
大きな音がして、隣室の言い合いが一瞬だけ止む。
「トヤーが目を覚ましたんだよっ。」
声を震わせたシャロンの叫び声が壁の向こうで響いた。
「なんか、色々あったけどさ。あたしはトヤーが助かったのはオーケがたくさん頑張ったお陰だと思うんだ。」
いつぞや聞いた声と同じ涙声が言葉を一気に続ける。
「今日もカッコよかったよ。ってのと、あとゴメンって言いに来ただけなんだ。あたしは喧嘩しに来たんじゃねぇんだよ。」
やがて、シャロンの嗚咽と鼻をすする音は、止み、まるで質の違う水がぶつかり合う音にとって代わられる。
常に同じ結果を迎える恋人たちの吐息のぶつかり合いの行く末にはエミリーヤは興味がなかった。
満ち足りた幸せに彼女が介入する隙はない。
人の不満や嫉妬、虚栄心を増長してこそ、そこに利益が生まれるのだ。
今、それに付け込まれているのは、どちらかと言えばエミリーヤの方かもしれない。
何日も連続でこうも若い女の子の純粋な恋の成功体験を聞かされて、華は開いていくのを目にしている。
帰る場所も帰る気力もなくなっていた女工作員が道を違えるには十分すぎる拷問だった。
あの老艦長の無関心と放置もよく効いている。
だが、今日の一件でエミリーヤはもう少しだけ我慢強くなれそうだった。
――そう、あの子は無事に乗り切ったのね。
吉報は士気を回復する。
まだまだ、小娘に負けるわけにはいかなかった。