Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Over Zuhai
Zhongshan System
Jade Falcon
14 February 3151
人類が地球を離れて千年が経った。だが星々の間に平和は訪れなかった。
ツォンシャン星系のような辺境の惑星では、人口百万に満たない住人の安全をメック小隊ひとつで自衛している。
この星にはかつてメックの中隊とその支援部隊が駐留していた。
しかし、2か月ほど前に氏族の地球侵攻作戦のせいで戦力の大半が引き抜かれた。
いまや残された守備隊は気圏戦闘機の星隊しか残されていない。
最近現れた指揮官様が地上の戦力を再建をしている。
それでも、成層圏を越えたこの濃い藍色の空では気圏戦闘機が最大の戦力だった。
今日も雲すら存在しない薄明の空に、10の影が音もなく昇る。
『目標の降下船は1隻、降伏勧告は要らない。破壊しろ。あとはパイロット諸君に任せる。』
コボルからの指示はそれだけだった。
――こいつ、パイロットの扱いに慣れている。
ドルマ―はそう感じていた。
戦端が開かれれば、パイロット同士の交信すらほとんどなくなる。
音速の数十倍の速度で展開される気圏戦闘機の戦闘中にパイロット同士が言葉を交わしている時間はない。
ましてや、距離の離れた地上からパイロットに多くの指示を出しても従っている間はなかった。
この後はもう状況終了まで地上からの指示はない。
ただの雑用係にこんな指揮ができるはずがなかった。
小隊の2番機を預かるドルマーはまだ若い。今年でようやく28歳を迎える。
だが、残されたパイロットの中では飛行時間の長い、隊のエースの一人だった。
『交戦を許可する。幸運を。』
戦闘開始を告げる古風な合図。
機体の武装は、すでにオンライン。
コボルの指示がなくとも、各機の火器管制装置はとうに火が入っていた。
照準役の4番機のArtemisⅣと接続されている。
彼の言葉は儀式みたいなものだ。
相手は惑星降下の態勢に入り、落下速度を抑えられない降下船。
ツォンシャンから昇ったドルマ―達はその降下経路で一撃離脱して迎え討つ。
半個星隊あれば十分な単純な作戦だった。
星隊総出で出動するような作戦ではない。
ドルマーよりも更に若いパイロット達に経験を積ませる。
それがこの過剰戦力の理由だった。
基地に物資がないはずなのに、若手の育成にリソースを割ける。
この余裕の源が、あのコボルの手腕だと言われていた。
機体を動かす燃料も、翼の下の長距離ミサイルも、あの用務員がどこからか用立てしている。
ドルマーは息を吐いて、サブモニターの数値を確認した。
お互いに目視できるのを待っていられるような飛行速度ではない。
発射のタイミングは肉眼ではなく機械任せだ。
やがて目標の降下船が長距離ミサイルの射程内に入る。
10の戦闘機が一斉に火を吹き、数条の槍が夜空を貫いた。
『弾着。全弾直撃。全弾直撃。』
興奮した若い声が通信機の向こうから聞こえる。
もう、それはドルマー達にとっては数キロ背後の出来事だ。
彼女たちの機体は発射されたミサイルを追い抜いて、既に目標の進路から外れて散開している。
地上から見れば、一本の線にすら見えない出来事。
だが、目標の降下船は降下軌道を外れ、炎に包まれながら落下していく。
音は聞こえない。
点にすら見えないほど遠く離れた上にドルマ―達は今や空気の層から遠く離れた暗闇の中にいた。
真っ赤に燃える降下船から飛び出した影があると5番機が警告する。
相変わらずの目の良さだ。
「ゾリグ、続けッ!」
2番機に続いて、5番機もすぐに反転する。
スラスターを吹かして、機体を180度反転させる機動には凄まじいGがかかる動きだ。
若年のパイロットには負荷が高すぎる。
だが、5番機のゾリグはそれをなんなく熟した。
ドルマ―の僚機の4番機のツェレンに匹敵するベテラン、ゾリグ。
本当は機銃しか持たない5番機を連れて行くのは人選がおかしい。
しかし、ツェレンの機体は兵装が重く、2番機の機敏な機動に追従させるのは無理があった。
5番機の情報を辿って、再び翡翠色の機体を青いツォンシャンの大気の下に向ける。
窓の外で吹き上がっていた炎が収まると、ゾリグに頼らずとも2番機が目標を捕えられる距離に近づいた。
目標の船体から脱出した黒い影は、やがて機体の形を露わにする。
姿勢の平行の制御をしながら、真っすぐに地表に向けて降下中のメックに2機の戦闘機で襲いかかった。
数条のレーザー砲や短距離ミサイルを受けて、メックは安定を失う。
更に5番機の機銃の追撃で、黒く焦げた機体は手足を失った。
哀れな脱出者が仰向けに回転しながら落ちていく。
機体の背面のジャンプジェットが落下の速度を下げようと青白い炎を吹くが、執拗に攻める5番機がその炎の色を赤に変える。
もはや、機体の姿勢制御は働かない。
真っ赤に装甲を融解させた巨獣は大地に落ちて、何度か白い光が瞬かせた。
それを見届けて、ドルマーは短い息を吐く。
あとは地上の連中の仕事だ。