Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bay1
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
9 January 3152
「エノリ、見てごらん。TimberWolfだ。」
エレナを探して艦内を彷徨っていた3人の前に3機のメックが佇んでいた。
その中でも異彩を放つメックが1機。
中心領域では氏族メックの象徴のように扱われるが、この機体はウルフ氏族が設計し、ヘルズホース氏族の工廠で作られている。
目の前の機体を見上げてみれば、この機体にも忌むべき狼のマークを見つけることが出来る。
ただ、ヌルはそれを見ても嫌気は走らなかった。
狼の顔面を裂く3本の猛禽の爪跡。
この機体が、ただの機体ではなく狼達から力で奪い取ったものである証だ。
相対した相手がそれをよく見ることが出来るように、機体の脇にそれは配置されている。
氏族にとって、メックを奪われるのは屈辱だ。
戦士個人の問題ではない。
つまるところ、この機体もこのマークも大声でウルフ氏族全体に向けて、喧嘩を売っているのだ。
「これには、エノリは乗らないほうがいいね。」
ヌルは首を振る。
破損している頭部が直った後だとしても、半端な腕前のパイロットが乗るべき機体ではない。
「ヌルなら大丈夫だとでも言うの?」
ヌルの腕を胸に抱えて、ぴったりと身を寄せていたエノリが不満そうな声を出す。
本当に不満を抱いているわけではない。これはそういう甘えだ。
「僕だってイヤだよ。」
間違っても、この機体で地球に向かうような勇気は無い。
もし、この機体のパイロットがこれに乗って、例えば地球侵攻作戦に向かおうとしたのなら、それはほぼ自殺行為だ。
翡翠色の機体の前でヌルは身を震わせる。
この船の中の所属になった以上、近いうちにこの機体のパイロットにも会うことになるだろう。
「ドルジさんの機体だから、貸してもらえないと思うっす。」
2人とも機体から目を離せずにいると、後ろで暇そうにしていたシフがパイロットの名前を口にする。
ずっと静かだったせいで、ほとんど彼女の存在を忘れていたヌルとエレナはその声に驚く。
これがシフではなく、マイであればエレナと適度にヌルの取り合いになる。だが、真面目な彼女は整備士達の話を聴くと言って、ヌル達の艦内散策には同行しなかった。
「ドルジ...ね。」
どんな戦士がこの機体に乗っているというのか、ヌルは是非ともその顔を見てみたかった。
メックの格納庫は何人もの整備士が、機体の状態の点検をしている。
十数時間前にこの船はヌル達の乗った降下船に体当たり攻撃を仕掛けたのだから、機体のどれかの拘束が弾け飛んでいてもおかしくない。
むしろ、あれだけのことをした後なのに、この船の中は整然とし過ぎている。ヌルにはそれが不気味に感じられた。
「あ、ヌル、女の人がいる。」
辺りを見回していたエノリが、格納庫の一角を指差した。
男性の多い艦内で女性がいるのは珍しい。
黄色い服の整備士達に紛れて、似たような色のワンピースを着た女性が組んだ手を胸元に当てて、ヌル達と同じようにTimberWolfを見上げている。
庫内の照明のせいなのか、白みを帯びたブロンド色の長い髪の毛の彼女は、その後ろに光輪を背負っているように見えた。
「エノリ、あれはエレナだ。」
目を擦ってもう一度よく見ても彼女の外観に変わりはない。でも、それが自分たちの仲間だとわかると少しホッとした。
「こんなところに居たんだな。ちょっと声をかけよう。」
エノリの手を引いて、ヌルはエレナの方に足を向ける。
彼女に何があったのか。今の彼女は到底、心を病んだヌル達の知るエレナと同一人物には見えなかった。